ふたりができていることくらい、見ればわかると総一郎/柄本拓はいうのだが、見てもわからなかった私としては、いったいどんな展開になるのだろかと不思議に思った。おそらく、この二人が恋人同士というのは本筋とは関係のない設定ではないか、なくともよい設定ではないと感じられたし、もしその設定が必要なら、ここから、どんなにめんどくさい物語が展開するのかと嫌な予感がした。
このあと、加藤/柄本明と相良/滝藤賢一は、蕎麦屋後にした竹やぶで剣を抜きあう寸前にまでになるのだが、そこにお三津/愛希みれいが加藤のためにと、握り飯の弁当をもってきて、二人の衝突は避けられる。おまえにまた救われたと、相良はお三津に語るのだが、お三津の出番はここで終わり(と記憶する)。なんなんなんだ、このふたりは。
この映画で女優というと、イモトアヤコだが、彼女は魅力的だが華がないと思われたのか、愛希れいかに無理やりと思われる役をつけ、さらには沢口靖子まで出演させるとはと、そのなりふりかまわぬと思われる配役には唖然とするところがあるのだが、しかし、それは恣意的な配役ではなく必然的な配役でもあったと気づく。
なぜならこの映画が主たる場所としているのが江戸時代の芝居小屋であり、そこは女性がいない男性だけの世界だからである。映画のなかでみるかぎり、大入り満員ではない通常の興行では100人もいないのだが、芝居小屋で働いているのは役者・裏方など含めて300人とされている。もっともこの映画、おそらく原作もそうなのだが、江戸時代の風俗・習慣について、レアな知識をたくさん教えてくれるのに、ほんとうだろうかと、私が無知なだけかもしれないが、不思議に思ってしまうところがある。そのひとつが冒頭の場面。19世紀の初めのころ、文化文政期に夜興行したとは思われないのだが、映画のなかでは、雪のなかでの夜の千穐楽公演がおこなわれる。
それはともかくとして、芝居小屋は、そこに働く者たちがファミリーとして一丸となって働くたんなる独立共同体というだけではない。俗世間から隔絶された宗教団体とは異なるとしも、それに似通った、男性だけのホモソーシャル共同体であって、それは男性優位の俗世間の強度を増した男性独自のユートピア的存在という様相すら呈してくる。
しかも芝居小屋の世界は、女性を排除しつつ、また吸収している。女性を演ずる男性がいる。そして男性による女装なり女性演技、トランスジェンダー性は、それだけで人を引き付ける魅力の源泉ともなる。おそらくこれは男性の女性化による両性具有性の誕生であり、そこに同性愛が生まれてもなんら不思議はなかった。
おそらく江戸時代においては、男性のホモソーシャル共同体が、ホモセクシュアル共同体へと連続することに誰もさしたる違和感も抵抗感も抱かなかったに違いない。ところが近代的なジェンダー分割は、男女平等へと向かうよりも男性優位と女性支配へと向かい、その際、男性ホモソーシャル関係は重視されたが、それがホモセクシュアル関係になることは極力避けられた。ホモソーシャル共同体のメンバーは、異性を、この場合、女性を、パートナーあるいは奴隷として所持している異性愛者であり、ホモソーシャル共同体のメンバーは、同じメンバーを欲望してはならなかったのである。
江戸時代は、さらには日本は、同性愛者の時代であり国である――とりわけ外国からみれば。しかし今は江戸時代ではない。私たちは外国人の目をもってはいない。そのため、同性愛は忌避される。だからである。ホモソーシャル集団である芝居小屋の人々、座付き作者(渡辺謙)や男優(冨家ノリマサ、本田博太郎)がトップに君臨するホモソーシャル王国の人々に、まちがっても同性愛者の嫌疑がかかってはいけないのだ。たとえ元女形の衣装係(高橋和也)がいても、芝居小屋関係者は同性愛者ではない。女形も、女性を演ずる技能をもつ職人であって、同性愛者ではない(映画『国宝』の世界)。芝居小屋では男同士裸の付き合いだが(柄本拓、長尾謙杜、瀬戸康史は、劇場内の風呂に入って男同士の付き合いをする)、家に帰れば妻(イモトアヤコ)が、劇場の外の蕎麦屋には恋人(愛希れいか)がいる。上方・京都には沢口靖子がいるのである。彼ら男同士は、どんなに仲が良くとも、そこに愛はない。愛は女性に向いているのである。
結局時代考証もなにも関係ない。この映画にあるのは、おそらく原作にあるのは、江戸時代の愛と性の真実というよりも、現代の強制的異性愛compulsory heterosexualityなのである。 つづく
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