2018年07月30日

正義の人 3 『ユダヤ人を救った動物園』

ジェシカ・チャスティン主演でポーランド動物園の園長の妻が、ナチスに迫害されるユダヤ人を匿い、逃亡を助けたという実話にもとづく映画『ユダヤ人を救った動物園 〜アントニーナが愛した命〜』The Zookeeper's Wife (2017)がある。動物園園長か、あるいは夫妻をイスラエルは『正義の人』に選んでいる。ポーランドではユダヤ人をかくまっていたことが判明すると、家族ともども処刑されるという、他のどの国にもないほどの厳罰を設けていたので、動物園長夫妻の行為は、まさに命がけのことであり、顕彰されるに値した。

地下室のようなところにかくまわれ、時いたって手配がととのい次第、国外へと逃亡していったユダヤ人が長時間過ごしたその地下室の壁に、落書きというか絵が描かれていることを動物園長の妻は終戦直後だったかに発見する。

薄暗い地下室でぼうっと浮かび上がるその壁にかかれた落書きの絵をみて、私は息をのんだ。鮮明ではないので、見間違いかもしれないが、たぶん子供たちが描いた絵だろうが、人間が描かれていてもその頭部が動物の頭になっている(私の見間違いかもしれない。いまブルーレイ・ディスクを人に貸しているので確認できないのだが)。これは、アガンベンの『開かれ』(平凡社ライブラリー)の冒頭で触れられている中世の写本が描くところの正義の人の姿ではないか。つまり頭部が動物なのである。動物園にかくまわれているのだから、動物が自然と擬人化の対象となったともいえるのだが、動物園、かくまう善きサマリア人、ユダヤ教における正義の人、こうしたイメージ群が頭部が動物である人間像を、かくまわれているユダヤ人たちに描かせたのではないか(つまりその壁にかかれた絵は、おそらく、当時の「壁画」の写真から再現したと思われるのだから)。アガンベンがまだ語っていない、「正義の人」の伝統的表象が、まだほかにも、あるのかもしれない。
posted by ohashi at 20:58| エッセイ | 更新情報をチェックする