はじめの、はじめ
本日、非常勤講師で出講している大学の授業が、残りあと1回となった。もちろん来週も授業があるのだが、実質的に今日で終わり。来週はエピローグというよりもコーダに近い。まあ試験を行う授業もあるようだから、骨休めにきてもらえばと思っている。
また英国現代演劇の有名どころを扱う講義は、昨年は駒場で、今年はこの大学で、行い、自分なりに暗中模索の段階から、光が見えてきてたので、本にするつもりで、内容をまとめてみようかと思う。もちろん、それをはじめるのは次回からにして、全体のスケッチを描くことができたらと思う。
ちなみに本日は、キャリル・チャーチルの『トップガールズ』を。この作品は、翻訳もあり、また2011年に日本でも2回目か3回目の上演を行なった。いまも世界のどこかで上演されているであろう人気作品である。
この作品との出会いは、それが英国で、テレビドラマ化されたときである。1990年代の初めだったと思う。これは録画しておかなければと思った私は、しかも、その日、土曜日は、旅行して留守にすることになっていたので、自動的に録画するように設定をした。
今はどうかわからないが、昔は録画設定がむつかしかった。番組を録ったつもりが、同じ時間帯の別のチャンネルの番組を録画したということは、よくあって、今では思い出せないのだが、英国独自のシステムが、けっこう混乱をひきおこしたものである。
そういえばヘレン・ミレンが女性捜査官役で有名になった『第一容疑者』Prime Suspectシリーズの第1作で、テレビの公開捜査番組に出演が決まった主人公が、年老いた両親に、その番組の録画を頼み、帰宅してから、その録画を観ようとして、両親がまちがえて別の番組を録画していたことを発見し、落胆し、怒りまくる場面があったが、英国でそれを観ていた私は、あの録画ミスはよくするんだと、また英国人も私と同じミスをするのだと、ちょっと嬉しくなったことを憶えている。
で、『トップガールズ』を録画する頃には、さすがに、そういうミスをしないように注意を怠らなくなったが、それだけではない。英国のテレビは定時に始まらない。日本で夜9時のニュース番組が、9時きっかりにはじまらないと、これは重大な放送事故となるのだが、英国ではそんなことはざらである。列車も時刻表通りに運行しない。まあ時間通りにきちんと始まらなくても、そんなに困らない分野はあって、たとえば大学の授業なんかそうでしょうと学生には伝えている。学生としては迷惑しているのかもしれないが。それはさておき、そうしたことがあることを知っていた私は、慎重に慎重を期して、『トップガールズ』が始まる10分まえから、番組が終わる10分あとまで録画の時間を設定して、旅行にでかけた。この『トップガールズ』のテレビ版は、何日も前から、テレビで宣伝してて、これは見逃してはいけないと期待していた番組であった。
旅行から帰った私は、録画したビデオを再生して観た。そして嫌な予感にとらわれた。番組が始まらないのだ。そう10分たっても始まらない。そして15分後、ようやく始まることになった。ああ、だめだと、私はため息をついた。そう15分遅れで始まった以上、番組も15分遅れで終わる。だが、私は10分しか録画時間の余裕をみていなかった。案の定、番組は、最後の5分、録画されないまま終わった。
それにしても15分遅れで始まるとは、なんちゅう国のテレビ局だ、重大事件が起こったというのなら、わからないでもないが、なにも起こっていない。平凡な週末の土曜日である。なせ定時に始められないのか。
と、まあ、こんなどうでもいい体験談を交えながら、英国演劇が語れないものかと、考えている。むりだろうが……。とはいえ体験談抜きでも、濃厚な議論ができればと思った。乞う、ご期待というところか。