2025年11月14日

じゃじゃ馬とトガリネズミ

どちらも英語でいうとshrew。

シェイクスピアの喜劇The Taming of the Shrewを、坪内逍遥あたりが「じゃじゃ馬ならし」と訳して以来、shrewは馬のことと思っている日本人は多いのだが、shrewは馬でなく、ネズミ、モグラのことである。

shrewの意味を英和辞典(Weblio)で調べると
口やかましい女、がみがみ女、トガリネズミ

とある。一つの単語のなかに異なる二つの語が同居している。「口やかましい女」と「ネズミ」はどうむすびつくのか(むすびつきそうもないものが語義のなかに共存しているので)。

ネットで語源を調べてみると以下のような説明をみつけた:
shrewの語源
古英語screawaトガリネズミ
→中英語shreue悪党・非行児
→近現代英語shrew トガリネズミ、意地悪な女性

とあって別々の語が一体化したのではないかと思われる。

たとえばschoolには「学校」関連の意味のほかに、「名詞可算名詞 (魚・クジラなどの)群れ 〔of〕。動詞 自動詞〈魚が〉群れをなす,群れをなして泳ぐ.」という意味もあるが、英和辞典などの見出しではschoolとかschoolとして区別している。つまり現代英語では、同じ綴りなのだが、もともとは別語源の単語という意味で。

「めだかの学校」という童謡を聞いたとき、水のなかのメダカの群れを「学校」という比喩で語るのは、なんと卓越した、あるいは変なセンスの表現なのだろうと感心したが、おそらく「めだかの群れ」という英語を「めだかの学校」と誤訳したにちがいないと、あとでわかった。

それはともかく、shrewの語源について、もう少し学術的な記述はないかと、ネットを探したら、以下の記事があった。
エティモラインetymonline
「shrew」の意味: 小さな哺乳類; 悪意のある女性; 口やかましい女性
「shrew 」の語源:
[小さな昆虫食の哺乳類; 悪意のある女性] 中英語の shreue は、「悪党、悪人; しかりつける女性; しつけの悪い子供」といった意味でのみ記録されており、これは古英語の screawa「シューリーマウス」、語源が不明な言葉から来ていると考えられています。

おそらく、原始ゲルマン語の *skraw-、インド・ヨーロッパ語族の *skreu-「切る; 切断工具」(shred (n.) を参照)に由来し、シューリーマウスの尖った鼻を指しているのかもしれません。古英語では scirfemus(sceorfan「かじる」から)という別の呼び方もありました。しかし、オックスフォード英語辞典(1989年版)は、古英語から16世紀まで「動物」としての意味が欠けているのは「注目に値する」と述べています。この辞典は二つの言葉を別々に扱い、「悪意のある人」という意味が元々のものかもしれないと推測しています。中英語辞典は、中高ドイツ語の shröuwel、schrowel、schrewel「悪魔」にも言及しています。

「気難しく、悪意があり、騒がしく、意地悪で、厄介で、騒々しい女性」という特定の意味は、約1300年頃から証明されており、初期の「意地悪な人」(男性または女性)という意味から発展したものです。これは伝統的に、シューリーマウスが持つとされる悪意のある影響に起因すると考えられており、かつては毒のある噛みつきを持つと信じられ、迷信的な恐れを抱かれていました(beshrew を比較)。Shrewsは、1560年代から17世紀にかけて、sheep(羊)と対照的な妻のタイプとして結びつけられていました。【この記事の「シューリーマウス」というのはネットで探しても出てこなかった。】

ただ、言えることは、先ほどの「school」と同様に、語源の異なる別の単語としてみてもよいように思われるのだが、多くの辞書には、同一単語内のふたつの異なる語義としている。そしてその場合、「がみがみ女」と「トガリネズミ」を結びつけるものが欠けている。そのミッシングリンクはなにか?

上記エティモラインetymolineにおける「シューリーマウス」--これはトガリネズミのことだろうが--、それが「毒のある噛みつきを持つ〔ママ〕と信じられ、迷信的な恐れを抱かれていました」と書かれている。「毒のある噛みつきを持つ」というのは日本語としておかしい、まあ、もしかしたら専門用語ジャーゴンなのかもしれないが。

そのため恐ろしい毒ネズミ(トガリネズミ)という語が、悪人、悪党、性悪女という比喩的な意味を帯びるようになったのか、悪人、悪党、性悪女という意味の語のほうが比喩として使われ、毒のある怖いネズミの名称となったか、まあ、そのいずれかだろうということになる。

ただしエティモラインの「かつては毒のある噛みつきを持つと信じられ、迷信的な恐れを抱かれていました」という記述は、日本語だけでなく、内容もおかしい。

ネットでは「毒という問い」という記事があった。
名古屋大学学術研究・産学官連携推進本部2025年7月22日12:35
https://note.com/nagoya_ura/n/n9e5425fa7f4f
「毒を持つ動物」といえば、何を思い浮かべますか?
毒ヘビ、毒グモ、スズメバチにアシナガバチ、フグに毒クラゲ…
危険生物好きの方なら、きっとまだまだ出てくるはず。
でも、その中に哺乳類はいるでしょうか?
あまり知られていませんが、哺乳類にも、毒をもつものがいます。その一つが「トガリネズミ」です。
【写真画像あり】
トガリネズミの中でも特に凶暴な「ブラリナトガリネズミ」。トガリネズミの仲間は、世界で300種以上が知られています。
ネズミといっても"モグラ"の仲間で、名前の通り"尖トガった"鼻先を持ちます。
「哺乳類で毒をもつ動物は、トガリネズミの仲間とカモノハシくらいしか知られていないんですよ。」
そう話すのは、この珍しい動物の毒を20年以上研究する北将樹きたまさきさん(生命農学研究科 教授)。【以下略】

この名古屋大学の北教授のグループによってトガリネズミの毒がつい最近、解明されたとのことだが、教授は20年以上も前からトガリネズミの毒を研究していたし、それ以前から、トガリネズミの毒については知られていて。けっして伝説ではないのである。

ただし300種以上もある、かわいらしい小さなトガリネズミすべてが「毒のある噛みつき」を持っているわけではなく、そのごく一部が強い毒のある噛みつきを持っているのである。だからトガリネズミについて、その毒性を記述していない辞書があってもおかしくはない。

そしてその「トガリネズミ」は英語ではただ、shrewという。

ちなみに日本テレビ系「金曜ロードショー」では、ディズニー最新作『ズートピア2』の12月5日全国公開を記念し、12月5日に、アカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた『ズートピア』(2016)をノーカットで放送予定とのこと。そこにshrewが登場するから興味があれば観てほしい。小動物地区に暮らしているshrewが吹き替えでは何と呼ばれているかしらないが、まあ「トガリネズミ」だろう。
posted by ohashi at 15:50| コメント | 更新情報をチェックする