2025年11月09日

明治大学シェイクスピアプロジェクト 1

私は、東京大学の文学部で、シェイクスピアに関する講義を担当していたときに、毎回、課題として、レポート以外に、シェイクスピア劇一作品についての観劇記を課題としていた。

学期中にシェイクスピア劇(授業で扱わなかった作品も可)をひとつ観て、感想を書く(400字程度でよい、それ以上書きたければたくさん書いていいが、それを書くエネルギーがあれば、もっとべつの有意義なこと、あるいは楽しいことに使ったほうがいいともコメントした――一応、ここは笑いどころ)。

ただし課題レポートは評価の対象となるのだが、観劇記は、評価の対象とはならない。観劇記を出さなくても評価に影響しない。ただし、観劇記を出さない理由は簡単に書いて欲しいと要求した。先祖代々、演劇を観てはいけないという教えがあり、演劇を観たら親から破門されるというような理由を書いて欲しいと――ここは笑いどころなのだが、毎回まったく受けなかった。観劇記を出さなくても評価に影響しない。優れた観劇記でも評価に影響しない。ひどい観劇記でも評価に影響しない。なら、なぜ、それを要求するのか。

この観劇記の目的は、ふだんから劇場に足を運んでいる演劇ファンには関係がない。むしろこれまで一度も劇場に行ったことがない学生こそが、はじめて劇場体験をすることになり、これからの人生にとってなにか有意義なものを得ることになるかもしれない。

たとえば文学部の講義では、そのなかでさまざまな文学作品を紹介したり解説したりするものが多い。熱心な学生なら、授業で触れられたり論じられたりした作品を全部読むかもしれない。実際は、それは不可能に近いのだが。たいていは興味のある作品をのぞいてみる、あるいは読破する。演劇の場合も、戯曲を読めばいいのだが、上演されてこその戯曲なので、実際に劇場に足を運んで上演を観ることに意義がある。そこでシェイクスピアの講義ではシェイクスピア劇を劇場で観てはどうかということで観劇記を課題とした。

ただし授業ではいくつかのシェイクスピア作品を選んで講ずるので、扱われた作品が学期中にどこかで上演されるかどうかはわからない。そこでシェイクスピア作品なら授業で扱わなかった作品でもよいことにした。さらに翻訳劇でも英語劇でも英語や日本語以外の言語で上演されたシェイクスピア劇ならなんでもよいことにした(海外で観てきたシェイクスピア劇でもOK)。

とはいえふつうシェイクスピア劇はチケットが高額である。高額なチケット代を払って観劇記を作成する余裕のない学生が観劇記を出さなかったら、それで単位がないということになれば、不適切な授業として訴えられ裁判にでもなれば負けるので――ここは笑いどころなのだが、ここでも毎回、受けなかった――、観劇記は出さなくてもOKなのだと語った。

また無料で観ることのできる演劇はある。アマチュア劇団の演劇とか、学生演劇などは、無料で公開していることが多い。というか無料だからアマチュア演劇なのである。そうした演劇形態でシェイクスピア作品を観てもよいことにした。

そのなかで私がレベルの高い、プロの劇団にも引けを取らない学生演劇として、明治大学シェイクスピア・プロジェクトを毎年授業で紹介した。そのせいもあってか観劇記では、明治大学シェイクスピア・プロジェクトでシェイクスピア劇を観た学生がけっこういた。学生たちは高い評価を与えていた。いや、それはレポートといっしょに提出する観劇記なので、なにかぼろくそに書いたら教員の心証を悪くするから、高い評価しか書かないと思うかもしれないが、観劇記は成績評価の対象外であるから、好きなように書いてよいとも伝えてあるので、明治大学シェイクスピア・プロジェクトに対する高い評価は真実の声である可能性大である。

実は第22回明治大学シェイクスピアプロジェクト『冬物語』を観た翌日、二兎社公演『狩場の悲劇』(原作:チェーホフ、脚色・演出:永井愛)を観た。明治大学シェイクスピアプロジェクトの舞台は、二兎社公演と比べてもまったく遜色ない、むしろ肩を並べるような舞台だった。もちろん、これはけなしているのではない。どちらも優れた、完成度の高い舞台であることは申し添えておく。

【なお、シェイクスピア作品の映画作品は観劇記の対象外とした。映画館ではなく劇場に足を運び、舞台を観ることを要求したのだが、当時はまだ配信がさかんではなかった。現在明治大学シェイクスピアプロジェクトは、上演した舞台を配信している。詳しく確認していないが、ライブ配信とアーカイブ配信があるようだが。また一般に舞台を配信することはけっこう多い。私もそれらを視聴することが多い。またナショナル・シアター・ライブのように劇場中継録画を映画館で上映することもいまでは多くなっている。劇場へ足を運ばなくても劇場の雰囲気は充分に味わえる。そんなときもし私が授業していたらどうしただろうと、ふと思ったりした。】
明治大学シェイクスピアプロジェクト 2 へ続く。
posted by ohashi at 22:01| 演劇 | 更新情報をチェックする