2025年09月10日

河内大和の異変

映画『8番出口』が好評で多くの観客を集めているようだが、すでに映画館で観た者としては納得のいくことである。出口なき迷路のような、地下鉄の地下通路を行ったり来たりする物語の不思議な魅力、ほぼ同じ地下通路を映しているだけの映像の不気味な緊迫感、次に起こることの予測不可能性のほかに、俳優たちの演技の素晴らしさがこの映画を支えていることは、おそらく誰もが認めるところだろう。

少年役の浅沼城の見事な演技。女子高生役の花瀬琴音ならではの不気味な演技。小松菜奈も登場時間は短いが、そこがかえって印象的だと感ずる観客もいよう。そしていうまでもなく、「迷う男」二宮和也の熱演というか力演と、「歩く男」河内大和の怪演。

『8番出口』のヒットの功労者が二宮和也であることはいうまでもないが、河内大和もまた功労者、もしかしたらその不気味な存在感で、二宮和也以上の功労者といえるかもしれない。

河内大和氏の舞台のすべてではないにしても、多くを観てきた私としては、テレビ番組『VIVANT』でブレイクして知名度を全国レベルに引き上げたあと、この映画で日本における知名度のみならず国際的な知名度も確固たるものにされたことは、なんとも悦ばしいことである。ある意味、もっと早く評価されてもよかったと思うくらいである。

映画の公開にあわせて河内大和氏はインタビューをいくつも受けたのだろうと思うが、たまたま私が読んだ記事のひとつに、氏の経歴が簡単に紹介されていた(氏が自己紹介しているのではなく、記者自身による紹介)。その紹介文を読んで、私は気づいたのだ――

異変に。

私は河内大和についてWikipediaで調べたことなどないのだが、慌てて調べてみた。異変を確認した。とはいえWikipediaの記事の内容のビフォア・アフターについては確認できなかったのだが、ただはっきりといえることは、河内大和氏の経歴から、劇団「カクシンハン」での活動がすっぽり、ほんとうにすっぽり抜け落ちているのだ。

劇団「カクシンハン」については、以下のWikipediaの記事参照【資料編参照】。ただしこの記事は最新情報を伝えていないので、現在、劇団は活動しているのかどうか不明。

Wikipediaによれば「カクシンハン」は現在までに本公演を13回(2019年時点)行なっているのだが、木村龍之介氏による演出の舞台のほとんどに河内大和は出演していた。出演というか主演である。河内大和はかつては「カクシンハン」の代名詞でもあった。私は、河内大和のリア王をマクベスをハムレットをイアーゴーをリチャード三世をタイタス・アンドロニカスを舞台で観た。どれもきわめてすぐれた上演で、歴史に残るといってもいいものだった。

ところが、その「カクシンハン」公演が、河内大和の経歴からきれいさっぱり消されているのだ。これを異変といわずして、何を異変というのか。そして何がこの異変を生じさせたのか。

人間関係や人事関係のことについては、興味があるのだが、興味を満たしてくれる手段を私は持っていない。だから詳しい事情はほんとうに何も知らない。

ただ一般的に推測できる事情(ただし根拠や証拠はない)としては、木村龍之介と河内大和が決別したということだ。目指すところ方向性の違いか、活動方針や活動手段の違いか、世界観・価値観の対立あるいはささいな個人的喧嘩、もともと犬猿の仲だった……?

どうやら発展的な解消というよりも敵対的決裂が起こったみたいで、河内大和は、その経歴から、「カクシンハン」とか木村龍之介の痕跡を抹消するまでに至ったということだろう。

ただ、なにがあったにせよ、いまや国際的な名声を誇るにいたった俳優・演出家としての河内大和が、その経歴に不透明な部分あるいは空白の部分をかかえているのは、大問題である。河内大和にとって、木村龍之介主催の「カクシンハン」におけるシェイクスピア上演は、マイナスの経験どころか、その経歴に書き込むことのできるプラスの誇りとなる経験であるはずだ。

私が望むのは、何かがあったかの事情の解明ではない。そうではなくて、「カクシンハン」におけるシェイックスピア劇上演の歴史を河内大和の経歴にしっかり刻んでおいて欲しいということである。実在した歴史の抹消は、事情がなんであれ、許されることではない。そしてくりかえすが、いま、その経歴から消されている出演歴は、決して忌まわしい恥ずかしいものではなかったはずなのだから。

早く、異変を消して欲しい。

資料編 
1~4はWikipediaより
1.河内 大和(こうち やまと、1978年12月3日[1] - )は、日本の俳優。山口県出身[1]。ジーガレージシェイクスピア道カンパニー「G.GARAGE///」を主宰するほか、芸能事務所「COME TRUE」に所属している[1]。

主な出演作品は、テレビドラマ『VIVANT』、舞台『THE BEE』『ヘンリー五世』『リチャード三世』『マクベス』『ハムレット』。

人物・略歴
山口県岩国市出身。【中略】新潟市に大型のホール・りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)が建立され、俳優養成の劇団も立ち上がり、そこでシェイクスピアの作品『夏の夜の夢』に出会う。【中略】2000年、『リチャード三世』(東京公演)のケイツビー役で俳優デビュー。本格的に俳優活動を始める。【中略】2004年より「りゅーとぴあ能楽堂シェイクスピアシリーズ」の立ち上げから参加し、『マクベス』や『ハムレット』など、シェイクスピア作品の主役を数多く演じる。その後2010年より東京進出【中略】2013年には、「シェイクスピアの道の極みを追い求めたい」との思いから、シェイクスピアカンパニー「G.GARAGE///(ジーガレージシェイクスピア道カンパニー)」を立ち上げ、企画・演出も手がける。2024年5月には、ルーマニアで2年に1度開催される「クライオヴァ国際シェイクスピアフェスティバル」にG.GARAGE///の作品『リチャード二世』が正式招聘され、世界から絶賛を博す。【以下略】

2.河内大和の出演舞台 Wikipedia「河内大和」の項にあり。
舞台
『リチャード三世』(2000年、演出:栗田芳宏) - ケイツビー 役
『ミュージカルハムレット』(2002年、演出:栗田芳宏) - レアティーズ、ギルデンスターン 役
能楽堂シェイクスピア・シリーズ『マクベス』(2004年、演出:栗田芳宏) - マクベス 役]
カンパニーデラシネラ『ある女の家』(2008年、演出:小野寺修二) - ある男 役
能楽堂シェイクスピア・シリーズ『冬物語』(2008年、演出:栗田芳宏) - リオンティーズ 役
PARCO劇場『中国の不思議な役人』(2009年、演出:白井晃) - 犬男 役
能楽堂シェイクスピア・シリーズ『ハムレット』(2010年、演出:栗田芳宏) - ハムレット役
カンパニーデラシネラ『ロミオとジュリエット』(2011年、演出:小野寺修二) - マキューシオ役
カンパニーデラシネラ『カラマーゾフの兄弟』(2012年、演出:小野寺修二) - ドミートリィ 役
NODA・MAP『エッグ』(2012年、演出:野田秀樹) - タザワ 役
子供のためのシェイクスピア『ジュリアス・シーザー』(2013年、演出:山崎清介) - キャシアス 役
『三人姉妹』(2013年、演出:石丸さち子)-ヴェルシーニン 役
NODA・MAP『MIWA』(2013年、演出:野田秀樹) - アメリカ人記者、追手 役
カンパニーデラシネラ『ある女の家』(2014年、演出:小野寺修二) - ある男 役
新国立劇場『テンペスト』(2014年、演出:白井晃) - キャリバン 役
東京芸術劇場『フィガロの結婚』(2015年、演出:野田秀樹) - 助演 役
KAAT『ペール・ギュント』(2015年、演出:白井晃) - ボタン作り、空 役
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ヴェローナの二紳士』(2015年、演出:蜷川幸雄) - シューリオ 役
子供のためのシェイクスピア『オセロー』(2016年、演出:山崎清介) - オセロー 役
東京芸術劇場『リチャード三世』(2017年、演出:シルヴィウ・プルカレーテ) - ケイツビー 役[13]
彩の国シェイクスピア・シリーズ『アテネのタイモン』(2017年、演出:吉田鋼太郎) - ルシリアス 役
KAAT『春のめざめ』(2017年、2019年、演出:白井晃) - 仮面の男 役
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ヘンリー五世』(2019年、演出:吉田鋼太郎) - フルエリン大尉 役
NODA・MAP『Q:A Night At The Kabuki』(2019年、演出:野田秀樹) - 源監市、薬売り 役
東京演劇道場『赤鬼』(2020年、演出:野田秀樹) - ミズカネ 役
東京芸術劇場『真夏の夜の夢』(2021年、演出:シルヴィウ・プルカレーテ) - 酒屋 役
『ダム・ウェイター』(2021年、演出:大澤遊)-ベン 役
彩の国シェイクスピア・シリーズ『終わりよければすべてよし』(2021年、演出:吉田鋼太郎) - デュメイン兄 役
Team申『君子無朋』(2021年、演出:東憲司) - 厨師劉、王子インタン 役
NODA・MAP『THE BEE』(2021年、演出:野田秀樹) - 百百山警部 役
G.GARAGE///『リチャード三世』(2022年、演出:河内大和) - グロスター公リチャード 役
G.GARAGE///『OshiireHAMLET』(2022年、演出:河内大和) - ハムレット 役
劇団鹿殺し『ランボルギーニに乗って』(2022年、演出:菜月チョビ) - マイケル 役
G.GARAGE///『リチャード二世』(2022年、演出:河内大和) - リチャード 役
彩の国シェイクスピア・シリーズ『ヘンリー八世』(2022年、演出:吉田鋼太郎) - ノーフォーク公爵 役
『ケンジトシ』(2023年、演出:栗山民也) - コロス 役
『大正浪漫探偵譚—エデンの歌姫—』(2023年、演出:鈴木茉美) - 木崎茂 役
KAAT『アメリカの時計』(2023年、演出:長塚圭史) - ロバートソン 役
G.GARAGE///『ヘンリー四世』二部作(2023年、演出:河内大和) - フォルスタッフ 役
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』(2024年、演出:長谷川寧、演出補:河内大和) - 切り裂きジャック、アーチャー警部 役
PARCO PRODUCE 2024 舞台『オーランド』(2024年、演出:栗山民也)
G.GARAGE/// 朝シェイクスピア90シリーズ『ジュリアス・シーザー』(2025年、演出:河内大和)
【河内大和氏は2013年にG.GARAGE///を立ち上げたことになっているが、その活動が本格化するのは2022年以降のようで、その間、G.GARAGE///が何をしていたのか謎である。】

3. カクシンハン(Theatre Company KAKUSHINHAN)は、日本の劇団。東京都渋谷区を本拠地としている。主宰は演出家の木村龍之介。
概要
東京大学で文学、蜷川幸雄カンパニー、及び文学座演劇附属演劇研究所で演出を学んだ木村龍之介が、主宰として2012年に旗揚げ。以降全作品を手掛けており、古典の大胆な解釈や斬新な演出を特徴とする。
演出・俳優・スタッフによるフラットな共同制作を行い、現在はシェイクスピア作品を中心として単独公演、プロデュース公演を行っている。2016年度シアター風姿花伝プロミシングカンパニー選出。
2016年劇団を法人化、現在は株式会社トゥービーが劇団運営/マネージメントを行う
【記述はここまでで現在の活動については不明】

4.「カクシンハン」本公演リスト Wikipedia「カクシンハン」の項目
フルスケール公演(本公演)
旗揚げ公演:ハムレット×SHIBUYA ~ヒカリよ、俺たちの復讐は穢れたか~, 渋谷 Gallery LE DECO4(2012年4月)
第二回公演:海辺のロミオとジュリエット, 渋谷 Gallery LE DECO4(2012年9月)
第三回公演:リア, SPACE 雑遊(2013年6月)
第四回公演:カクシンハン版 夏の夜の夢, SPACE 雑遊(2014年6月)
第五回公演:仁義なきタイタス・アンドロニカス, SPACE 雑遊(2014年8月)
第六回公演:ハムレット, SPACE 雑遊(2014年11月)
第七回公演:カクシンハン版 オセロー Black Or White, シアターグリーン BIG TREE THEATER(2015年4月)[3]
第八回公演:カクシンハン版 ジュリアス・シーザー, シアターグリーン BIG TREE THEATER(2016年1月)
第九回公演:カクシンハン版 リチャード三世 1471- 1485, シアター風姿花伝(2016年5月)[4]
第十回公演:マクベス, 東京芸術劇場シアターウエスト(2017年1月)[5]
第十一回公演:タイタス・アンドロニカス, 吉祥寺シアター(2017年8月)[6] [7]
第十二回公演:ハムレット, シアターグリーン BIG TREE THEATER(2018年4月)[8] [9]
第十三回公演:カクシンハン版 薔薇戦争(「ヘンリー六世」「リチャード三世」), シアター風姿花伝(2019年7月)
【Wikipediaにはここまでの情報しかない。2019年以後も公演活動は続けている】

5.「カクシンハン」本公演における河内大和出演作品
 「カクシンハン」ホームページより 2023年で更新が終わっている。
 作品はすべて松岡和子訳、演出:木村龍之介 詳しくは以下のサイトを参照:
https://www.kakushinhan.org/works/

□カクシンハン 第12回公演「ハムレット」2018年4月14日(土)~22日(日)
出演:河内大和、真以美、岩崎MARK雄大、のぐち和美 ほか
□薔薇戦争(ヘンリー六世、リチャード三世)2019年7月~8月
出演 河内大和(カクシンハン)真以美(カクシンハン)岩崎MARK雄大(カクシンハン)宮本裕子(アクソン エンタテインメント)鈴木彰紀(さいたまネクスト・シアター)小田伸泰(俳優座)野村龍一(天才劇団バカバッカ)大塚航二朗(無名塾)他
□ハムレット 2019年5月公演
出演:河内大和(カクシンハン)真以美(カクシンハン)岩崎MARK雄大 (カクシンハン)他
□ヴェニスの商人 2018年11月
出演:河内大和、真以美、岩崎MARK雄大
□冬物語 2018年7月公演
出演 河内大和、真以美、岩崎MARK雄大、井上哲、のぐち和美(以上カクシンハン)他
□ハムレット 2018年4月
出演:河内大和、真以美、岩崎MARK雄大、のぐち和美(以上、カクシンハン)他
□タイタス・アンドロニカス 2017年8月公演
出演:河内大和(カクシンハン)、真以美(カクシンハン)、岩崎MARK雄大(カクシンハン)、のぐち和美(カクシンハン/青蛾館)
□マクベス 2017年1月公演
出演:河内大和(カクシンハン)真以美(カクシンハン)岩崎MARK雄大(カクシンハン)穂高(カクシンハン)のぐち和美[特別出演](カクシンハン)
□リチャード三世 2016年5月
出演:河内大和、真以美、のぐち和美、岩崎MARK雄大他
□ヘンリー六世三部作 2016年5月
出演:河内大和、真以美、のぐち和美、岩崎MARK雄大他
□ジュリアス・シーザー 2016年1月
出演:河内大和、真以美 他
□オセロー Black Or White 2015年4月〜5月
出演:河内大和、真以美 他
□ハムレット 2014年11月
出演:真以美、河内大和
□仁義なきタイタス・アンドロニカス 2014年8月
出演:真以美、河内大和、丸山厚人他
□夏の夜の夢 2014年6月
出演:真以美、中村彰男、杉本政志(劇団 AUN)、河内大和 他
□リア 2013年6月
出演:河内大和、真以美 他
posted by ohashi at 21:13| コメント | 更新情報をチェックする