私はアメリカ人(まあ、平均的な)ではないので、知らない俳優が多くて当然だとしても、映画『スーパーマン』(ジェームズ・ガン監督2025)のなかでスクリーン上で確認できた知っているというか有名な俳優は、レックス・ルーサー役のニコラス・ホルト(出演映画、ドラマ多数。冒頭でみのもんた司会のクイズ・ミリオネアと全く同じ形式のテレビ・クイズ番組が登場して、フジテレビ、パクったのかと驚いた映画『アバウト・ア・ボーイ』――そこに登場する子役の頃からニコラス・ホルトはよく知っている)と、グリーン・ランタン役のネイサン・フィリオンの二人だけ。
ネイサン・フィリオンって誰だというなかれ。大ヒット、テレビドラマ『キャッスル』(放送終了、シーズン7くらいまでいった)の主役(実際には、相棒役のスタナ・カヤック扮するケイト・ベケット刑事のほうが人気が出て、フィリオンがシリーズ継続を嫌がったとかいわれていた)、そして現在もアメリカと日本(BS、CS)で放送中の『ザ・ルーキー40歳の新米ポリス!?』(現在シーズン7)で主役。
ニコラス・ホルトとネイサン・フィリオンの二人(さらにいえばスーパーマンの父親役のブラッドリー・クーパーは当人とは気づかなかった。母親役のアンジェラ・サラファンはテレビ・ドラマ『ウェスト・ワールド』に出演して人気が出たのとことだが、『ウェスト・ワールド』は全部観たが、もう今となっては彼女がどんな役だったのか覚えていない)。
ちなみに知っている俳優が二人しかないというもうひとつの映画が『侍タイムスリッパー』。山口馬木也と冨家ノリマサの二人しか知らなかった。山口馬木也は、映画やドラマ、それに舞台(シェイクスピア劇)でも観ていて知っていた。冨家ノリマサは誰もが一度はテレビ・ドラマで観ているはず。この二人しか知っている俳優はいなかったのだが、低予算のインディーズ映画『侍タイムスリッパー』なら、それは当然のことである。
当然ではないのは、『侍タイムスリッパー』の何倍かわからぬくらいの膨大な製作費を使った映画『スーパーマン』で有名な俳優が二人しかいないというのは、どういうことか。スーパーマン役のデヴィット・コンスウェット、誰か知っていますか。彼が出演した前作は『ツイスターズ』だが、この映画、主役はデイジー・エドガー=ジョーンズ(誰だというなかれ、私の好きな『ザリガニの鳴くところ』の主役)とグレン・パウエル(『トップガン マーヴェリック』に出演後、人気が出ていくつかの映画の主役に)のふたり。デヴィット・コンスウェットは端役。別に彼に魅力がないとか演技が下手だということではない。ただ、こんな大作映画に出演するような俳優ではなく、本来なら、主役といってもB級映画の主役がお似合いなのだ。
映画の宣伝というか、彼自身の宣伝において、子役の頃からの長い経歴からしても、すでに大物俳優であるかのような宣伝のされかたをされているが、無理やり感のある誇張であろう。小物俳優ではないか。小物がメジャーな映画の主役をするなということではない。抜擢が間違っているということでもない。ただ、彼が主役になることは、映画全体のつくりとどこかしっくりくるのだ。すなわち、この映画はメジャーなマイナー映画なのだ。いいかえればB級感ただようA級映画なのだから。
そう今回の『スーパーマン』、メジャーな映画というよりも、B級映画臭がふんぷんとしているのである。メジャーなマイナー映画。メジャーでありながらマイナーは存在。まさに監督がそうだ。
永久C級映画監督
以前、シェイクスピア映画について本を書こうとして色々調べていた頃、1996年製作のTromeo and JulietというB級映画がカルト的な人気を博していることがわかった。製作はトローマ・エンターテインメント。Wikipediaの説明が簡潔で要を得ている。
トロマ・エンターテインメント(英語: Troma Entertainment)は、アメリカ合衆国の映画製作会社。イェール大学出身のロイド・カウフマン(Lloyd Kaufman)は、1971年から映画の製作を行っていたが、1974年にマイケル・ハーツ(Michael Herz)と共にトロマ社を設立した。設立当初から低予算のインディペンデント映画の製作に特化し、いわゆるB級映画を専門的に製作及び配給している。
ホラー映画やコメディ映画が主なジャンルで、内容的には度を越したくだらない設定のものが多いが、日本においても一部熱狂的なファンが存在するため劇場未公開作品であってもビデオ化される事も多い。
【中略】
トロマ作品はカルト映画として取り上げられる事もあるが、あまりのくだらなさから「おバカ映画」「Z級映画」とも呼ばれ馬鹿馬鹿しさを楽しむための映画であるため、鑑賞の際には寛容さが必要である。
いくら日本語版のWikipediaのレヴェルが低いとはいえ、解説文の記述/修飾語とし「度を越したくだらない設定」という表現は、ちょっと度を超しているが、ただ、まったくその通りである。
そのなかでTromeo and Julietはシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のパロディでもないパスティーシュのようなもので、無意味に、流血沙汰になり、人間の身体が切り刻まれ周囲が血の海と化すような、精神年齢が低そうなというよりも、精神年齢なんかないような人間が面白がるような作品だった。私は当時、DVDだったかVHSだったか、これを購入し、東大英文研究室の映像教材のコレクションに入れた。トローマ・エンターテインメントは比較的最近も、『#シェイクスピア シットストーム #ShakespearesShitstorm』 (2020)を制作したが、DVD化されているかどうかわからない。もし東大英文研究室がこの作品をコレクションに加えなかったとしても、私はその判断は正しいと思う。ちなみに『トロミオ……』を観た外国人教師は、最低の映画だと言っていたが、でもくだらないけど面白いとも評していた。
20世紀の終わり頃のこと、この映画の監督はわからなかったが、いまでは、トローマ社のLloyd Kaufmanが監督ということになった。ただ、トローマ社のほとんどの映画はKaufmanが監督となっている。どうやらKaufmanはプロデューサー的な存在であって実際には他の人間が監督として映画を制作していたのだろう。『トロミオ……』の場合、それは副監督、助監督として映画に参加し、脚本を書いた人間、すなわちジェームズ・ガンである。
「トロマ作品はカルト映画として取り上げられる事もあるが、あまりのくだらなさから「おバカ映画」「Z級映画」とも呼ばれ馬鹿馬鹿しさを楽しむための映画であるため……」とWikipediaにあるような映画、そのひとつの『トロミオとジュリエット』の実質的な監督ならびに脚本製作者がジェームズ・ガン。おバカ映画、C級を通り越してZ級映画のこの映画がどんな映画だったのか、正直言って、漠然とした印象があるものの、そのほとんどを忘れてしまった。ただ、ジェームズ・ガンのこのZ級映画がどんなだったかは、ジェームズ・ガンのメジャーデヴュー映画『スリザー』を観ることで推し量ることができる。つづく
