2025年06月15日

ラルフはレイフ

ある本を古書として購入したとき(その本は、17世紀英国演劇の優れた翻訳書で、なおかつ、他に類書がなく貴重なものなのだが、以下の私の記事のとっばちりをうけて否定的な扱いをされると困るので、今回は、書名は伏せる)、その本の最後に同じ出版社から出版している書籍の広告があった。

『エリザ朝初期悲劇喜劇集』斎藤国治・村上文昭訳(中央書院1981)

で、日本図書館協会選定図書とある。4作品を収録し、「いずれも本邦初訳」とあるが、キッドの『スペインの悲劇』は、『エリザベス朝演劇集』(小津次郎・小田島雄志編、筑摩書房1974)に収録された村上淑郎訳『スぺインの悲劇』のほうが古いはず。村上訳が初訳かどうかは知らないが、すくなくとも『エリザ朝初期悲劇喜劇集』に収録されたそれは本邦初訳ではない。

しかも、『エリザ朝』とは、いったいなんだ。それは「エリザベス朝」の日本語でしか通じない略称で、なんでそんな略称をタイトルに使うのか不思議である。『ロミオとジュリエットの悲劇』という本のタイトルにするのではなく『ロミ・ジュリの悲劇』というタイトルにするようなものである。頭がおかしい。

しかしきわめつけは、収録作品のなかに「ラルフ・ロイスター・ドイスター」というタイトルの喜劇が含まれていること。ニコラス・ユーダルの「エリザ朝」の有名な喜劇だが、「ラルフ」はないよ。「レイフ・ロイスター・ドイスター」でしょう。

レイフ・ファインズ(Ralph Fiennes)という俳優を知らないのだろうか。最近も映画のなかでだが、もうすこしでローマ教皇になるところだった人物である。Ralphは、昔は「レイフ」でしょうし、レイフ・ファインズの例もあるように、いまでも「レイフ」と発音することが多い。

また私が大学院生だった頃、授業で『レイフ・ロイスター・ドイスター』を扱ったとき、報告担当者だった私は、「ラルフ・ロイスター・ドイスター」と発音して、小津次郎先生から「レイフ」だと注意されたことを今も覚えている。

結局、日本図書館協会選定図書の『エリザ朝初期悲劇喜劇集』に「ラルフ・ロイスター・ドイスター」という作品を収録した翻訳者たちは、誰からも「レイフ」だと間違いを正されなかったということだろう。その本は持っていないので、確かなことはいえないとしても、翻訳のレベルは高いのだろうと思う。ただ、翻訳者たちが受けてきた教育のレベルが低すぎることはまちがない。

posted by ohashi at 10:05| コメント | 更新情報をチェックする