現在、高齢者、それも独り暮らしの高齢者を狙った、様々な詐欺行為があふれている。そして高齢者に対してよく言われるのは、自分だけは騙されないという過信こそ、もっとも危険なものであるということだ。
私もそれは正しいと思う。ほんとうにプロの詐欺師にかかったら、私などひとたまりもないだろう。私は詐欺師を相手に自分が騙されないという自信は全くない。唯一の防衛手段は、詐欺師から逃げることである。接触を避けることである。接触したら絶対に騙されるので。
と、他人ごとのように言っているが、実は、私もつい最近、ほんとうに騙された。
市役所から電話がかかってきて、あなたから税金を取りすぎたので、お金を返したいと言ってきた。すでに市役所から文書を送付したが、それを読んだかと問われた(私は間接話法で語っている。実際の口調は、きわめて丁寧なものであった)。
そのような文書を受け取った記憶はないと伝えながら、私は、ひょっとして見落としていたのかもしれないと心配になった。そこで、文書を郵送していただいたかもしれないが、私が見落としている可能性もあると市役所の職員に伝えた。
すると取りすぎた税金をお返しする手続きの期限はすでに過ぎているが、手続きをされていない方がけっこういるので、締切を延長した。いま手続きをされれば、間に合いますと丁寧な口調で言われた。
これは詐欺なのだけれども、私はそれに気づかず、こう考えた。手続きをするのは面倒くさい。そもそも私はそんなに税金を納めていない。かりに税務署あるいは市役所がまちがって多くの税金を徴収したとしても、数万円とか数十万円が返ってくるということはない。せいぜい数千円、もしかしたら数百円くらいのものだろう。そんな数千円のために、文書を再送してもらって、書類を作成して、申請するというのは面倒だし、時間の無駄である。
そこで私は、お声をかけていただいたことはありがたいが、すでに期限をすぎていることでもあるし、そのために市役所に迷惑をかけるのも悪い。ですから、今回の件は、なかったことにして、還付金も放棄しますと告げ、声をかけてもらったことに対し感謝しつつ、電話を切った。
電話を切った時点でも、私は、相手が市役所の職員であると信じていた。詐欺にひっかかったのである。
冷静になって考えると、もし税金をとりすぎた分を返すというのなら、さっさと返しくれればいい。税務署・市役所には、私の口座を知らせてある(毎年、確定申告するので)。そこに振り込んでくれればいいだけの話で、あとから振り込んだという手紙でも送れば、それですむことである。なんの手続きが必要なのだろう。
そんな単純なことも、実は、電話を切るまでわからなかった。というか電話を切るまで、相手を市役所職員と信じてまったく疑わなかったので、こんなちょろい老人はいない。まんまと詐欺にひっかかっている。
ただ幸い被害がなかったのが、こっちが変人の老人だからで、取りすぎた税金を返すといわれても、そんなものはいらないと、まさかこちらが言うとは思わなかったはずだ。またいくら返ってくるかは、最後までむこうから伝えなかった。そんなものは最初からないので、伝えようもなかったのだが、下手に適当な額をいうと、嘘がばれてしまうので、そこは警戒していたのだろう。またこちらが毎年確定申告をして、市や税務署に伝えてあるので、さっさと振り込んでくれたらいいと要求すればよかったのだが、詐欺師に騙されていると、そこまで頭がまわらなかった。私は頭が空っぽな人間だとつくづく思い知った。
とにかく面倒なことが嫌いなので、手続きをしたくない、その一心で、最終的に断ったのだが、しかし、市役所に対して断ったと思っていたので、詐欺師に騙されていたことはまちがいない。
それにしても、電話を通してのことだったが、いかにも詐欺師だという感じではまったくなく、本当に市の職員と信じてしまったくらいだから、詐欺師の怖さが身に染みてわかった。
私も変わり者の老人でなかったら、情報なり金銭を奪われていたかもしれない。
