2025年03月17日

捏造のジャーナリズム

開運なんでも鑑定団の3月16日日曜日午後1時からの再放送を観て、そのなかのあるお宝の鑑定をめぐって思うことがあった。といっても、鑑定とかお宝そのものについてのことではない。

それは2024年11月12日に放送された番組の再放送だったのだが、大谷翔平の日本でのプロ初ホームランのホームランボールを見事に受け止めた人に関係するお宝だった(出張鑑定団のコーナー)。

2024年11月12日の放送は、スポーツ紙にも取り上げられたので、記事の一部を引用しておく:
祝ワールドシリーズ制覇!大谷翔平がプロ入りして初めて放ったホームランボールを見事キャッチ!そのボールを球団に返却したところ、大谷からいただいたサインボールに驚愕の鑑定結果が!2024年11月12日 22時11分スポーツ報知

12日放送のテレビ東京系「開運!なんでも鑑定団」(火曜・午後8時54分)で、ドジャース・大谷翔平投手の“プロ1号”ホームランボールが意外な鑑定額となる一幕があった。

この日の番組では「第29回スポーツグッズ鑑定大会」を開催。中日ファン歴40年の日比章裕さんが持ち込んだのが、日本ハム時代の大谷が2013年3月17日、鎌ヶ谷スタジアムで行われた自身のデビュー戦、日本ハム―中日のオープン戦の3回に打ったホームランのボールだった。

右翼席で観戦していた日比さんは「3、4人の方とビーチフラッグみたいになって、大谷選手のプロに入って初のホームランを私が取りまして」と記念すべき1球をゲット。やってきた球団職員に「大谷選手がプロになって初めてのホームランなので、本人の手元に返したい」と言われ手渡したが、1週間後に送付状とともに送られてきたのが、日付とともに「日比さんへ」と書き込まれ、「背番号11」も書かれた大谷のサインボールだった。

日比さんの本人評価額は50万円だったが、鑑定額は35万円とダウン。鑑定人は「大変、貴重なルーキーシーズンのサインボールです。まだ公式戦デビュー前ですから、どこか初々しい感じのするサインボールで日付が書かれているのもいいです。本来であれば(日比さんという)名前が書かれているのがマイナスなんですが、このボールの場合、ファイターズからの送付状や依頼人の名前も書かれてるので、ホームランボールと交換されたものという信ぴょう性に置いて大変、重要な情報も入ってます」と評価した上で「もし、ホームランを打った実際のボールであれば、ゼロのケタが違う値段がついたと思います」と付け加えていた。

この記事が重要なポイントをすべて拾っているで、どういうお宝で鑑定だったかはおわかりになると思うのだが、私が驚いたのは、そこではない。

この記事では触れられていないのだが、上記の日々さんの話によると、妊娠中の妻と野球観戦に来ていたのだが、ホームランボールをキャッチしたこと、球団側から、当然のごとく、返してくれるように頼まれたこと、しかたなく返したこと、その一部始終をたまたまそこにいた新聞記者にみられて取材を受けることになった。そして翌日の記事にはなんと、大谷のプロ初ホームランをキャッチした日比氏、妊娠中の奥さんから生まれてくる子に「翔平」の名前をつけると書かれていた。

しかし、これは新聞記者のでっち上げであり、日比氏は子供に翔平という名前をつけるつもりはなかったし、実際に、子供は翔平という名前ではない。ふつうに考えても、いくら大谷翔平が人気者だったとはいえ、日ハム時代のプロ初ホームランであり、そのボールをキャッチしたからといって、どうして自分の子供に翔平と名前をつけなければいけないのか。まあ、今だったら、翔平という名前を喜んでつけたかもしれないのとしても。また日比氏は、中日ファンであって、なぜ日ハムの選手の名前を子供につけなければいけないのか。

実際、その新聞記者は、妄想がひどすぎはしないか。まるで大谷の打ったボールは、大谷からの精液ボールで、それが日比氏の妻の子宮にとどき、妻は夫ではなく大谷の子を宿し出産することになった。となると、これでは日比氏はもう絵にかいたような寝取られ亭主ではないか。こうした無意識の連想が新聞記者に、大谷のホームランボールをキャッチした観客が自分の子に翔平の名前をつけるという記事をでっちあげさせたのだ。

比ゆ的であれ寝取られ亭主じみた存在を押し付けられた日比氏にとっては、ほんとうに迷惑な話である。そして重要なのは、重大なのは、新聞記者は、自分の頭のなかにつくりあげた連想あるいは物語に夢中になり、現実的・常識的にみて、やや常軌を逸している内容の記事を、それも実際に関係者の了解もとることをせず、ただ、読者のウケをねらって記事をでっちあげた。

まあ新聞紙面一段のこぼれ話的な内容の記事であって、そんなことに目くじらをたてるなと言われそうだが、ここに新聞ジャーナリズムの悪癖が、あるいは誤謬が、いや、邪悪なところが典型例のように認められるのだ。このことは決してゆるがせにできないのである。

付記:
子供に翔平と命名という記事は、テレビ画面でも紹介されていた。ただどこの新聞社の記事なのかはわからなかった。もちろん2013年3月17日か18日の新聞のバックナンバーを調べればいいのだが、どの新聞社の記事なのか見落としたので、その記事にたどり着く前にけっこうお金を払う必要があろう。番組も、見逃し配信で見直せるのかもしれないが、再放送の見逃し配信があるのかわからず。いまのところ確認はとれていない。
posted by ohashi at 17:13| コメント | 更新情報をチェックする