自民党の惨敗を招いた「2000万円問題」の"厚顔" 赤旗「非公認に2000万円」報道で情勢が一変(泉 宏によるストーリー)東洋経済オンライン2024年10月30日
【前略】
そもそも選挙戦の「推移」を検証すると、赤旗が「2000万円」問題を報じた直後から、それまで前回比大幅減だった期日前投票が激増し、「各メディアの出口調査結果などで、その大多数が無党派層だったことが、自民惨敗につながった」(選挙アナリスト)との指摘が少なくない。
【中略】
こうした経過や結果を踏まえると、「全国的規模での期日前投票急増と、赤旗による『2000万円支給』の特ダネをメディアが一斉に後追いしたことが、タイミング的に一致しているのは確か」(選挙アナリスト)とみる向きが多く、「結果的に、自民の対応への不信や批判が有権者を突き動かし、期日前投票に向かわせた」(同)との見方が広がる。
さらに「その結果、低迷していた投票率が数ポイント上昇し、その多くが反自民票となり、各小選挙区での自民候補の落選と、比例代表での自民得票率の減少につながった」(同)との分析も説得力を持つのだ。【以下略】
今回の衆議院選挙において『赤旗』による「非公認に2000万円」報道が情勢に変化をもたらしたことはおそらく確かだろうが、ただ影響をあたえたらしいという漠然とした印象や推測ではなく、確かな証拠を求めた結果だろう、この記事は、『赤旗』の報道以後、期日前投票が増えたというデータを、その根拠としたのだ。
だが考えてみてもいい、『赤旗』による報道で、自民党はひどいということがわかった。では、自民党に票を入れないでおこうとか、野党を勝たせようと思ったというのならわかる。しかし、自民党はひどい、だから期日前投票に行こうというのは、いったいどういう理屈なのだ。
この時期に期日前投票が増えたのは、明白な理由がある。自治体の準備が遅れて有権者のもとに届いていなかった投票所入場券が、この時期、ようやく届き始めたからである。そのため期日前投票をする有権者が一挙に増えた。これ以外に理由は考えられない。
もちろん投票所入場券がなくても、期日前投票も、投票もできる。そのように各自治体は告知している。しかし、具体的にどういう手続きで投票所入場券を持たない有権者が投票可能になるのか、そうした事例に遭遇したり立ち会ったりしたことがないので具体的な手続きはわからない。そうなると不安になる。期日前投票を控える有権者も多いだろうと推測できる。そこにようやく自治体から待ちに待った投票所入場券が届く。期日前投票を予定していた有権者は、さっそく投票所に出かける。
と、まあこんなことだろう。赤旗による報道と、期日前投票の急増との間に因果関係はない。こじつけもはなはだしいと言わざるを得ない。
なお、赤旗による報道が投票率を増やすという推測も、証拠はないが、根拠は薄い。むしろ赤旗による報道によって投票率は下がったのではないかと思う。
今回の衆院選挙は前回の選挙時よりも投票率が下がった。自民党が過半数割れを起こすのではないか、野党が票を伸ばすのではないと投票前に言われ続けたこともあり、今回の選挙は国会での勢力図が変わるかもしれない、重要な選挙として、関心は高かったと思われるのだが、投票率は低かった。
これは投票所入場券の遅配送とは関係ないだろう。赤旗による報道の結果、自民党に嫌気がさした有権者のうち、これまでの自民党支持者で投票しなかった有権者が多かったからではないか。自民党に嫌気がさしても、かといって野党に投票しようとは思わない有権者は多かった。そのため投票率が下がったということだろう。
もしあなたがリベラルあるいは左翼であるとしよう、その際、野党側によい候補者が皆無だとして、では、自民党に投票するかというと、それはしないだろう。あなたはただ棄権するだけである。それと同じことが自民党支持者にも起こったと考えるしかない。
赤旗による報道は、国民を有権者を舐め切った自民党の体質の揺るがぬ証拠を白日のもとにさらすことで、自民党への批判票増大につながったと思われるのだが、批判票の増大というのは、野党候補への投票者をふやすのではなく、自民党支持者のなかに投票しないことを選択する有権者の数を増やすことになったのである。