2024年10月13日

もうひとつのシャクルトン

ミュージカル『アーネストに恋して』(原題『アーネスト・シャクルトンが私を愛する』)は、シャクルトンという探検家のもつオーラに大きく依存していることは確かだ。

日本版Wikipediaは、英語版を下手に翻訳したもののように思われるのだが、そこには以下の記述がある

1959年にアルフレッド・ランシング著『Endurance: Shackleton's Incredible Voyage(邦題:エンデュアランス号漂流)』が出版された。これは肯定的な視点でシャクルトンを描いた最初の本である。同じくしてスコットへの態度は徐々に変わり、文学作品の中で批判的記述が増え、バルチェフスキーが「痛烈な一撃」と評した、1979年出版のローランド・ハントフォードによる伝記『Scott and Amundsen』におけるスコットの扱いで頂点に達した。このスコットの負の一面は世間に真実として受け入れられるようになり、彼を象徴していたヒロイズムは20世紀後半の意識変化の犠牲になった。数年のうちにスコットは【中略】人気が急上昇したシャクルトンに、世間の尊敬面で完全に逆転された。2002年、BBCは「100人の偉大なイギリス人」を決めるアンケートを行ったが、シャクルトンの11位に対しスコットは54位であった。

そして
2002年にはチャンネル4が、ケネス・ブラナーを主役に1914年の遠征を描いた連続番組『Shackleton』を制作した。アメリカではA&E Networkで放送され、2つのエミー賞を受賞した。


とだけあるが、このケネス・ブラナー主演の『シャクルトン』を私は日本のテレビで観た。

2003年5月NHKでテレビ放送され、その大反響を受け2005年1月1日、2日にNHK教育テレビで再放送された。私はどちらの放送をみたのか記憶が定かではないが、たぶん再放送のときだと思う。現在、配信はされていないがDVDで販売されている。観て損はないテレビドラマ(前後2回3時間のドラマ)である。

これで「シャクルトン」の名前をしっかり刷り込まれた私は、イギリスのメーカー、エアフィックス(AIRFIX)社がシャクルトンのプラモデルを発売したとき、いち早く購入した。もちろん「シャクルトン」が誰かを承知の上でというか、その飛行機が「シャクルトン」と命名されていたがゆえに購入した。

Wikipediaの説明によると
アブロ シャクルトン(Avro Shackleton)は、アブロ社がアブロ リンカーン爆撃機に新しい胴体を取り付けて開発し、イギリス空軍により使用された長距離洋上哨戒機である。元々は主に対潜戦(ASW)と洋上哨戒機(MPA)として、後に早期警戒管制機(AEW)、捜索救難(SAR)やその他の任務が追加されて1951年から1990年まで使用され、南アフリカ空軍でも1957年から1984年までの期間使用された。機体名称は極地探検家のアーネスト・シャクルトンに因んで命名された。

そして「合計で185機のシャクルトンが1951年から1958年に生産された」とある。

英国空軍が航空機のニックネームに「シャクルトン」を使ったことは、「スコットvsシャクルトン」のライヴァル対決のなかでシャクルトンに軍配を挙げたというよりも、「スコット」という名前がありふれていて印象に残らないからだろう。またどちらが人気があったのかという問題ではなく、探検家としてシャクルトンは生前も死後も高い知名度を誇っていたことの証左がその命名にあらわれているということだろう。

ちなみにAIRFIXのプラモデルは1/72のスケールモデルでよくできている。シャクルトンは同じアブロ社の、第二次世界大戦中の爆撃機「ランカスター」ほど、面妖な機体ではなく、むしろ大人しい設計の機体なのだが、ただ随所に英国機的なおかしなところがあって面白い。4発のプロペラ機だが、二重反転プロペラなのでプロペラを8つ作らねばならないというめんどくささはあるが、プロポーションはよく、細部もスケールにみあった再現がされていて、作りやすいキットである。

ただAIRFIXの組み立て説明書には、コックピットを、天井も壁も床も、そして椅子までも黒く塗るように指定しているのだが、いくらなんでもこの色指定は雑すぎるのではないかと、ネット上で画像や動画をさがしてみたら、シャクルトンのコックピット、椅子や椅子のクッションまでも真っ黒だった。おそるべし英国機。
posted by ohashi at 10:39| コメント | 更新情報をチェックする