2024年04月08日

あみだかぶり

ヘルメットというか保護帽を後ろにむけてかぶるのを、あみだかぶりといって、ヘルメット着用の際には避けるように言われている。

あみだかぶりという表現は初めて知ったのだが、あみだかぶりそのものは、昔から存在している。

ミドリ安全.comのウェブサイトには、以下の注意書きがある。
かぶり方
保護帽はまっすぐに深くかぶり、後ろに傾けてかぶらないようにしてください。(あみだかぶりをしないでください。)

ヘッドバンドの調節
ヘッドバンドは、頭の大きさに合わせて調節し、確実に固定してください。(ヘッドバンドの調節が悪いと、使用中にぐらついたり脱げやすく、保護性能を十分に発揮することができません。)

アゴひも
アゴひもは緩みがないようにしっかりと締めてください。着用中は、ゆるめたり外さないでください。(事故のとき、保護帽が脱げて重大な傷害を受けます。)

問題は台風などのレポートのとき、レポーターが、このあみだかぶりをして状況を伝えたことでバッシングを受けたことだ。そんなに前髪が気になるのかというかたちで。さらにはネット上ではあみだかぶりをする者たちへの憎悪をにじませる記事もあり、そうした記事には警備員を職業としている人間が、あみだかぶりをする者の人格攻撃をするものもあって、私など、あみだかぶり攻撃をする人間に対し、おまえの人格こそ破綻している、自害せよと言ってやりたくなるのだが……。

私たちの着こなしとか身に着け方には、オンとオフの状態があって、なかでもオンとオフが裏表ではなく対等の関係にあったり、ときにはオンよりもオフのほうが評価されるものがある。たとえば男性のネクタイ。あらたまった場、正装とか正式の場では、きちんとネクタイを締めるのが当然のことなのだろうが、ネクタイは、同時に、結び目を下にさげ、ネクタイをゆるめることがある。

きちんと締めるのがオン。すこしだらしなくリラックスしたかたちでゆるめるのがオフである。もちろん正式の場で、だらしないネクタイは許されない。しかし緊張した時間が終わりリラックスするときネクタイをゆるめる者たちは多い。緊張とリラックス。表と裏との関係はしかし、逆転することもある。リラックスしてネクタイをゆるめたオフの状態のほうがかっこよくて、逆に、ネクタイをきちんと締めるのはフォーマル感はあるものの同時にダサい感じもする。さらにいえばネクタイをゆるめた格好そのものがかっこよくて着こなしのファッションとなることもある。くりかえすが、ネクタイは、オンとオフのふたつの身に着け方があるのだが、時としてオンの状態がダサくてオフの状態がファッショナブルなことはある。
【追記:同様の例は男性の無精ひげである。無精ひげは、通常のおしゃれのひげとは違い、だらしないだけという面もあるが、たとえば無精ひげが男くささの象徴としてみられることもある。これは本来オフの無精ひげが、きちんとひげを剃ったオンの状態よりもかっこいいとみなされるよい例である。実際、近年のアメリカのドラマでは人種にかかわらず無精ひげの男性が精悍な男性性をにじませるマッチョな男の代表となっている。】

ヘルメットも同じである。オフはあみだかぶり状態である。もちろんヘルメットを着用して作業をする仕事をするときに、あみだかぶりはしてはいけないのだが、リラックスするとき、緊張をほぐすとき、休憩中は、あみだかぶりがふつうであり、そしてあみだかぶりのほうが、仕事慣れしたベテラン感を出すことができる。逆にきちんとヘルメットをかぶっているだけの者は、がちがちに緊張していて精神的余裕がなく、信頼できない感じもする。あみだかぶりをしている者のほうが、信頼度が高い。そしてヘルメットをファッションとして着用する場合には、目深にかぶってバンドを固定するダサいかぶり方よりも、あみだかぶりのほうがかっこいい。

戦争映画では、激しい戦闘場面は別として、リラックスしている兵士たちはみんなあみだかぶりをしていた。ヘルメットを目深にかぶってあごにバンドで固定しているのは、がちがちに緊張している新兵であり、古参の兵隊は、日常的にはあみだかぶりであった。

私が子供の頃、人気があったアメリカの戦争物のテレビドラマ『コンバット』で主役のひとりサンダース軍曹のイメージは、まさに、あみだかぶりのヒーローであった。

あるいは別の戦争映画かドラマでは、顎紐をしっかりつけようとする新兵に、古参の兵隊が、あごひもははずしておけ、さもないと爆風で首がもげるとアドヴァイスしていたことを私はいまも覚えている。そのアドヴァイスが正しいものかどうかわからないが(とはいえまちがったアドヴァイスをするというのは考えられないのだが)、あごひもは外しておく、また戦闘以外のリラックスしているときにはあみだかぶりというのが、かっこいい兵士像であった。
【追記:これについては私の記憶があいまいだったのだが、Wikipediaの『コンバット』の項目に以下の記述があった:
サンダースなどが、ヘルメットの顎紐を外しているのは、これをしっかりと締めていると近くで強烈な爆風を浴びた時に、ヘルメットの内側に爆風が吹き込み、ヘルメットを吹き飛ばす風力が顎紐から首に集中的にかかって、首の骨が折れると現場の兵士達に信じられていた為であるが(顎紐を締めていなければ爆風を受けてもヘルメットが飛ぶだけで済む)、白兵戦の時に敵にヘルメットを引っ張られると顎紐が首を絞めるという、より現実的な問題もあった。後に衝撃で外れる顎紐に変更されるが、顎紐をしない兵士は依然多かった。21世紀の現在でも顎紐を締めずヘルメットの縁に引っ掛けておく者はいる。現行のACHやLWHではこの技は使えない。

上記の「別の戦争映画かドラマでは」という私の記述はまちがいで、『コンバット』での設定であった。いずれにしても、Wikipedaの記述が正しければ、あみだかぶりや顎紐をはずすという、一見だらしない着用法も、現実には戦闘時にも存在していたことになる。なおACHは米陸軍や空軍で使われている最新の戦闘ヘルメット、LWHは米海兵隊で使われているヘルメットのこと。】

実際、子供の頃、なにかの理由で(おそらく避難訓練)、ヘルメットをかぶることがあったのだが、私はそのときあみだかぶりをしてみた。顎のベルトはつけなかった。そのほうがベテラン感がでて、有能な古参の兵隊のような気分になった。ヘルメットの場合、オンがださくて、オフのほうがかっこよかった。

またテレビのレポーターが被災地あるいは悪天候の地でヘルメットをかぶって報告するときに、あみだかぶりをしているのは、たんにそのほうがかっこいいからではなくて、目深にヘルメットをかぶると顔がみえなくなるからだろう。ヘルメットを目深にかぶって、顔も表情もよくわからない人間が報告することほど不気味なものはない。それならロボットに報告させればいいのではないか。やはり顔を出さないとみている側も安心していられない。

またレポーターがあみだかぶりをしていたら、正しいヘルメットの着用法が国民に伝わらないと批判するファシストがいるが、レポーターは、離陸前の救命胴衣の着用法を身をもって示すCAじゃない。またあみだかぶりが、ゆるめたネクタイと同じで、正しいあるいは正式な着用法・かぶり方ではないことくらい、誰にもわかる。非正規の、くずれた着用法だからこそ、カッコイイという部類に入る装具品に、ネクタイと同じくヘルメットも入る。

【追記:もし私が報道関係者で、AIレポーターをつくるとすれば、ネクタイをゆるめたかっこうのAIの映像はだらしないだけで作ることをしないが、あみだかぶりをするAIレポーターは登場させるかもしれない。そのほうがAI臭さ、あるいは機械映像臭さを払拭できる気がするので。もっとも正しいヘルメットかぶり推進ファシストの反対にあってやめるかもしれないが。】

そしてこんな初歩的なこともわからずに、ヘルメットのあみだかぶりを批判している輩こそ、人格が破綻していることを自覚せよと言ってやりたい。
posted by ohashi at 17:29| コメント | 更新情報をチェックする