2024年03月06日

『コヴェナント/約束の救出』

原題がGuy Ritchie’s Covenantとなっているのは、もうひとつの映画『コヴェナント』(リドリー・スコット監督の『エイリアン:コヴェナント』(2017)のことだろう)と区別するためらしい。

ガイ・リッチー監督の近年の映画としては、フランス映画のリメイクである『キャッシュトラック』(2021)、『オペレーション・フォーチュン』(2023)と比べると、エンターテインメントとはいえ、アフガニスタンを舞台にしたシリアスな戦争ドラマとなっていて評価は高いようだ。裏切りに次ぐ裏切りの犯罪ドラマ『キャッシュトラック』とか、ばかばかしいスパイ・アクション映画『オペレーション・フォーチュン』にくらべたらということかもしれないが、個人的には『オペレーション・フォーチュン』は好きである。

戦争映画のお約束は、「敵中突破」なのだが、この『コヴェナント』もその例に漏れず、お約束の敵中突破を2回も行う。一度は、負傷した曹長を荷車に載せて、タリバンが支配している地域を100キロくらいの逃避行の末に米軍基地に無事帰還するアフガン人通訳の敵中突破行。もうひとつは、この敵中突破によってタリバンから命を狙われ身を隠している通訳を救出すべく、曹長がアフガンの地に再度降り立ち無事救出すること。実際にあったことではないようだが、二度の敵中突破は成功するだろうと予想がつくものの、思わず引き込まれるつくりをしていて、良質のエンターテインメントとなっている。まさに「お約束の敵中突破=救出」。

ただ、アフガニスタンや中東を舞台にした近年の戦争映画を観ていないので、同種の戦争映画と比べてみてどのくらいの出来なのかは比較し判断できないのだが、個人的な判断では面白い映画だと思った。

もちろん戦闘場面を売りにするただのエンターテインメントにとどまらず、最終的に撤退して現地の多くの通訳たちを見殺しにせざるを得なかったアメリカ軍の非情・非道ぶりへの批判はあるし、また命を救ってくれたアフガン人が窮地に陥っているときに、その恩返しとして単身救出に向かう元曹長という民族と国籍を超えた友情物語を罪滅ぼしとして作ったともいえなくもない。通訳の男性にはヴィザばかりかアメリカのパスポートも与えられる。

映画のなかでは、主人公たちの逃避行によって、人間が住んでいそうもないむき出しの原野と峡谷が開けてきて、その圧倒的な風景に驚かされ、アフガニスタンはすさまじいところだと思ったのだが、さすがにアフガニスタンでロケはできなかったようで、スペインでのロケに終始したようだ。ただたとえそうでも、スペインには、こんなところがあるのかと驚いた。

空軍基地の航空機などもアメリカ軍のマークをつけているが、スペイン軍の軍用機らしい。大きな軍用輸送機が駐機していた、あれは自衛隊も使っているC130の改良型かと思ったら、エアバスA400だった。ちなみに米軍はエアバスA400を使っていない。スペイン軍の機体とわかった。また最後に救世主としてあらわれる死の天使、ガンシップのAC130は、スペイン軍は使っていないので、あれはCGなのか、そこのところはよくわからなかった。

ちなみに西側の描くタリバンは、もちろん、誇張と悪魔化をほどこされた表象にちがいはなくて、真のタリバン像とは違うと予想はつくのだが、では真のタリバンとはまったく重なることのないフェイク像にすぎないかというと、そうでもないだろう。彼らの悪逆非道ぶりは、否定のしようもないところである。

幸か不幸か、日本人には、タリバンのために尽くし、タリバンによって殺され、殺された後、タリバンによって聖人化された中村哲という人がいる。アフガニスタンの人々のために人道支援してタリバンに殺されたら、悲劇の英雄にほかならなかったが、生前からタリバンの擁護者いやタリバンそのものと言われ、死後、タリバンからほめたたえられている中村哲については、安易な判断は下せない。タリバンによる殺害は悪い冗談だったのだろうか。あるいはタリバンを憎む勢力によって標的にされたのだろうか。

この『コヴェナント』から思い起こすというか、コロナ渦で日本の公開時にみることができなかったふたつの映画を配信などでみることになった。

ひとつは『記者たち/畏怖と衝撃の真実』(2018/日本公開2019)。あらためてSeptember 11からテロとの戦いに入り、アウガにスタン、そしてイラク戦争へと突き進んだアメリカの歩みとその過ちを、この映画を通して見直してはどうだろうか。

そしてもうひとつ『コヴェナント』で曹長を演ずるジェイク・ギレンホールの妻を演じていたエミリー・ビーチャム。彼女が主演の映画『リトル・ジョー』(2019/日本公開2020)である。というか『リトル・ジョー』は『コヴェナント』よりも先に観たのだが、ふたつの映画でエミリー・ビーチャムの印象が異なるため、『コヴェナント』での彼女について最初は認識できなかった。というか『リトル・ジョー』における彼女の髪型が変すぎたせいでもあったのだが。

次の記事ではこの二つの映画について少し触れてみたい。
posted by ohashi at 10:59| 映画 | 更新情報をチェックする