2024年03月05日

トイレがまぎらわしい

本題とはちょっと関係ない話だが、

昔イギリスのテレビでアメリカのテレビドラマを放送していて、それを観ていたのだが、内容は、文字が読めない初老の男性の話。もう孫もいる男性なのだが、文字が読めない。

そのため孫も含む家族全員で、海鮮料理のレストラン(おしゃれな高級レストラン)に食事に行っても、メニューが読めないので、ハンバーガーを注文する。

せっかく高級レストランに食べに来たのだから、メニューから自由に選べばいいのではと家族の者たちから非難されても、頑固にハンバーガーと言い張る。おじいちゃんは、どこへ行ってもハンバーガーしか注文しないのだからと息子か娘がこぼしつつ、店員にハンバーガーはあるかと訊くとあるというので、それで事なきを得る。

そしてこのおじいちゃん、トイレに行くと問題に遭遇する。

トイレには、ふつうならmenとwomenあるいはgentlemenとladiesと書いてあって、記号化された男女の図(ピクトグラム)がつけられているのだが、なんとその海鮮レストランのトイレにはsailorsとmermaidsと書いてあるだけ。ちなみにそのドラマを観ていた私は英語の文字は読めるから(まあ日本で義務教育を受けた人間としてはあたりまえのことだが)、どちらが男性用かはすぐにわかったが、このおじいちゃんは文字が読めないから、どちらに入っていいかわからない。そのため男女がどちらのトイレに入るのか様子をみて判断することになるのだが、なにかへんな男っぽいかっこうをした女性がマーメイド(女性用)のトイレに入ったので、そこを男性用と勘違いしたおじいさんは、堂々と入っていて、なかにいた女性たちから怒鳴られ叫ばれて追い出されるはめになる。

イギリスでの成人教育月間か週間にテレビで流されていたドラマで、成人教育というと、日本では、歳をとって何か習い事をするとか、資格をとるとか、趣味にうちこむとか、カルチャーセンターに通うとか、そういうイメージしかないのだが、イギリスでは成人教育は、そのメインの的のひとつに、文字を読めない人に文字を読めるようにするということがあって驚いた。文字が読めない人が多い(移民とかいうのではなく、ネイティヴで)。そして、またネイティヴのように話せないのだが、幸い文字は読める私は、そのドラマを観てなにか変な優越感にひたったことをいまでも覚えている。そのドラマについては、いろいろ書きたいこともあるのだが、今回の本題は、文字が読めないということではなく、最近のトイレ、なにかまぎわらしくなっていて、男性用と女性用をまちがえてしまいがちであるということである。

2月29日に、こんな記事がネット上に、
横浜駅のトイレに不満多数「設計悪手すぎるだろ」広報の見解は
SmartFLASH の意見 2月29日

男子トイレと思ったら “とんだ不意打ち”…東急横浜駅のトイレに不満多数「設計悪手すぎるだろ」

渋谷と横浜をつなぎ、1日の平均輸送人員が100万人を超える「東急東横線」。1日の乗降客が渋谷に次いで2位の横浜駅には、毎日30万人ほどが訪れているが、そこにある男子トイレが「わかりにくい」と騒ぎになっている。

トイレを表示する看板は、右側がピンク、左側が緑のカラーリングとなっており、パッと見は左が男子トイレだと誰もが思うだろう。しかし、左側のトイレは、オストメイト(人工肛門造設者など)や障害者、また子連れや高齢者などに配慮したバリアフリートイレ(男女共用多機能トイレ)なのだ。

バリアフリートイレの入口横にある「お手洗い案内図」を見てみると、バリアフリートイレのさらに左側、男性の足なら20歩も歩いたところに男子トイレがある。

もちろん、バリアフリートイレは男女共用のため、男性が使っても問題ないのだが――ホームから階段を上がってすぐのところにこのトイレはあり、ずっとトイレを我慢してきて、1分1秒を争う状態で「やっとたどりつけた!」と安堵した人には、とんだ不意打ちに違いない。

実際に観察していると、わずか2〜3分の間に、続々とバリアフリートイレに男性が入っていこうとするも、みな何か違うことに気づき、引き返して出てくる。入っていいのかどうかわからない人が多いのだろう。

たまたま作業を終えた清掃員の女性が出てきたので、「ここは使ってもいいんでしょうか?」と話を聞いてみた。すると、「いいんです、いいんです。体の不自由な方だったり、小さなお子さん連れの方がメインなんですけど、空いているときは全然使っていいんです」とのこと。

とはいえ、しょっちゅう利用客から同じ質問をされるようで、「わかりにくいですよね。迷う方が、たくさんいらっしゃるんです」と困惑気味に話してくれた。

実際、この設計にわかりにくさを感じる人は少なくないようで、ネット上では、

《東急、マジでこのトイレの設計悪手すぎるだろ…普通男子トイレだと思うじゃん》

《日本語・漢字が分からない外国人であるなら、確かに判断に迷うでしょう》

《脇に地図あるじゃん。見りゃわかるだろ!文字見りゃわかるだろ!色見りゃわかるだろ!ピクト【「ピクトグラム」を「ピクト」と略すことをはじめて知った】見りゃわかるだろ!いやいや、人間はそんなに丁寧ではない》

《これ実際にわたし間違えました…》

などの声が複数上がっている。【以下、略】

略したのは東急電鉄の見解の部分だが、東急電鉄に限らず、どうも最近、駅だけでなく繁華街やショッピングセンター、デパート、公共の建物でのトイレが、わかりにくいというか、まぎらわしくて、まちがって入ってしまうことがよくある。

先日も、あるデパートのトイレにいたら、突然、女性が入って来た。まちがって入ってきたようで、その女性はすぐに出て行ったが、私自身も、気づかずに女性用トイレに入ってしまい、あわてて飛び出しことがある。

たとえせっぱつまってトイレに駆け込んだわけではないのに、なにかまちがってしまうつくりになっている。私が老人で、暴走したり逆走したりする老人のドライヴァーと同じで、耄碌しているからと言えないこともないのだが、それにしても耄碌だけでは説明がつかないこともある。

記事にある東横線の駅のケースだが、男女共用のトイレがあることがまぎらわしさを強めている。バリアフリートイレがたくさんできるのはよいことだとしても、また男女どちらでも使ってよいトイレとはいえ、そこは男女どちらもとも使いにくいところでもある。

そして男女共用の図柄(ピクト!)あるいは文字があるために、その左右にあるトイレがどちらか急いでいるとわからなくなってしまうのではないだろうか。

もちろん本格的な分析をするつもりはないが、落ち着ていて判断しないと、まちがった側に入ってしまいがちであることは、強く意識しておきたい。

【追記
最初にふれた、私がイギリスで観たテレビ映画のタイトルはBuffing It(1987)。日本で放送されたか、上映されたかは知らない。主役はデニス・ウィーヴァー。スピルヴァーグを一躍有名にしたテレビ映画『激突』Duel(1971)の主役といえばわかるだろうか。日本ではまたNHKで放送されて連続テレビドラマ『警部マクロード』(1975-77)の主役としても名高かかった。そのウィーヴァーが孫もいる初老の工場長を演じたのがこの映画で、彼は読み書きができない。そのことは妻以外誰も知らないのだが、やがて隠しおおせなくなって……という話。

文字の読み書きを習いはじめた彼のところに、孫の女の子が、おじいちゃん、絵本を読んで近寄ってくる。これまでは相手にしなかったのだが、文字が読めるようになった彼は、孫を抱きよせ、絵本をたどたどしく読み始める。そこで映画は終わる。映画のポスターなどでは、この画像が使われている。映画を代表するシーンであり、観ていて泣けた。


posted by ohashi at 20:06| コメント | 更新情報をチェックする