『トップガン・マーヴェリック』は今年に入って初めて観た。コロナ禍で映画館に足を運ぶのがためらわれたのと、映画に登場するF-18戦闘機があまり好きではないからだった。
今回、テレビでも放送された(地上波かBSだったか忘れた)こともあって、多少のネタバレがあっても許されるだろうと思い、自由に感想を記すことにした。
3.『633爆撃隊』
映画『633爆撃隊』は、航空映画・戦争映画史上に残る名作映画で、第二次大戦に使われた英国のモスキート爆撃機の実機が空を飛ぶ迫力ある映像と、最後に、ミッションを達成するが部隊は全滅、隊長とペアを組む爆撃手一人だけが生き残るという悲劇的内容によって記憶されている。
トップガンというのは、ヴェトナム戦争時に優秀なパイロットを集めてその技能を錬磨する訓練校として開設されたもので、卒業生は、出身の部隊に戻り、同僚に技能を伝授することを求められた。教官養成学校、いうなれば「師範学校」、それがトップガンである。
前作『トップガン』でトップガンは、ただ優秀なパイロットを養成するだけで、卒業生たちが、みんな同じ空母でミッションをこなすというのも本来ありえないことだった。今回も卒業生たちが集められ、困難で危険なミッションをこなすために訓練されるという、これも本来ありえないことである。
そのミッションとは、敵国の原子炉が稼働する直前に、その原子炉をピンポイント爆撃で破壊するというもの。しかも原子炉は渓谷の奥地にあり、対空ミサイルや対空レーダーをかいくぐって低空飛行で接近し爆弾を投下するのはミッションとして不可能に近い。そのため危険な訓練を繰り返すことは、そのミッションともども映画『633爆撃隊』を彷彿とさせる。
『633爆撃隊』ではノルウェーのフィヨルドの奥にあるドイツ軍の燃料基地(V1とV2の燃料)に対するピンポイント爆撃ミッションを、英軍のパイロットたちが、高速で運動性の高い木製爆撃機モスキートをつかって果敢に挑むことになる。そのさまは『トップガン・マーヴェリック』の訓練ならびにミッションと重なる。いや、その攻撃シーンは、ジョージ・ルーカス監督の『スター・ウォーズ』第1作(全体ではエピソード4)におけるデス・スターの対空砲火と帝国軍のタイファイターの攻撃をかいくぐりながらの、反乱軍Xウィングによる危険きわまりない攻撃と同じだという主張がされるかもしれない。それも正しい。なぜならジョージ・ルーカス監督は、『スター・ウォーズ』の最後の攻撃シーンを、『633爆撃隊』のそれからインスピレーションを受けたと語っているからである。
ちなみに『スター・ウォーズ』(第1作)と『トップガン・マーヴェリック』の類似点もこの最後の爆撃ミッションに見出せる。『トップガン・マーヴェリック』では、「マーヴェリック」に遅れていた「ルースター」が「考えるより行動せよ」の言葉を思い出して爆撃に成功するのだが、これは「ルーク・スカイウォーカー」がコンピュータによる照準をやめて「フォース」を信じて攻撃し成功するのと同じである。
4.『ディヴォーション-マイ・ベスト・ウィングマン』
航空機による攻撃中、攻撃を受けて機体が敵地に不時着したり、撃墜されてパイロットだけ落下傘降下したりする映画はけっこうある。そうした場合、敵地で敵に包囲されたあと、いかに脱出するかが物語の中心になる。「敵中突破」が、ほとんどの戦争映画のお約束的設定であることを思い起こせば、『トップガン・マーヴェリック』でも、ミッションに成功したあと敵地に降下したトム・クルーズ/マーヴェリックが、いかにして敵地から脱出するかが、観客にとっても重要な関心事となる。
ちなみに、以前、このブログで、映画『ディヴォーション』について語るなかで、朝鮮戦争を扱った映画『トコリの橋』に触れたが、あの映画の衝撃性と悲劇性は、敵地に不時着したジェット戦闘機F9Fパンサーのパイロットを救出するために飛来したヘリコプターも攻撃され大破、戦闘機のパイロットとヘリコプターのパイロットが共産軍に包囲され殺されることにあった。敵中突破への期待が裏切られ、悲劇的結末を迎えるのだ。
この映画『トコリの橋』は、朝鮮戦争中、撃墜されて不時着したパイロットを救助すべくヘリコプターが飛来するも、パイロットが墜落時の衝撃で変形した機体に挟まれて抜け出せず絶命するという、実際にあった事件から着想を得ていたかもしれない。
その実際にあった事件とは、アメリカ海軍で初のアフリカ系アメリカ人パイロット、ジェス・ブラウン少尉の戦死である。ブラウン少尉の機体は、地上の敵兵の銃弾があたり炎上、敵地である雪山に不時着。その後、少尉からの連絡が途絶えたため、少尉のウィングマンであったトム・ハドナー大尉も同じ雪山に不時着。ブラウン少尉が機体から出られなくなっていることを発見。救出のヘリコプターが到着してもブラウン少尉を機体から引きずり出せず残しておくしかなかった。のちにハドナ-大尉は、この僚機のパイロット救出のために、みずからも不時着した行為によって、戦死したブラウン少尉とともに、名誉勲章を大統領から授与されている。
Netflix映画『ディヴォーション』は、米海軍初の黒人パイロットの戦死までを扱っているのだが、雪山への不時着、僚機のパイロットのさらなる不時着。そこからの脱出の試みなど、まさに『トップガン・マーヴェリック』におけるミッション遂行後の敵中突破の物語を彷彿とさせる。
『トップガン・マーヴェリック』では、雪の敵地に降下したトム・クルーズ/マーヴェリックを追って、みずからもパラシュート降下したのはマイルズ・テラー/ルースターだったが、『ディヴォーション』で、ジョナサン・メジャーズ(『アントマン&ワスプ-クアントマニア』の)/ジェス・ブラウン少尉を救出するために自らも雪山に不時着するのは、トム・ハドナー大尉だが、大尉を演ずるのは、誰あろう『トップガン・マーヴェリック』で「ハングマン」を演ずるグレン・パウエルなのである。『トップガン・マーヴェリック』では癖の強い役どころであったグレン・パウウェルも『ディヴォーション』では癖のない好人物を演じている。
もちろん『ディヴォーション』は『トップガン・マーヴェリック』のあとに作られた映画なので、『トップガン・マーヴェリック』に影響を与えてはおらず、むしろ『ディヴォーション』のほうが『トップガン・マーヴェリック』から影響を受けたようにもみえる。ただ、『ディヴォーション』は朝鮮戦争時代の実話の映画化であり、その実話が『トップガン・マーヴェリック』に影響を与えたのかもしれない。同じ実話を共有する(一方はインスピレーション源、いまいま一方は準拠すべき史料として)ことで、『トップガン・マーヴェリック』と『ディヴォーション』の一部が奇しくも似ることになった。
つづく
2023年03月12日
『トップガン・マーヴェリック』2
posted by ohashi at 09:55| 映画
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