2023年01月17日

『ダイブ』

La Caída/Dive

Amazon Primeで独占配信の映画。アルゼンチン・メキシコ映画(2022年)となっているのは、監督の女性(ルシア・プエンソ)がアルゼンチン出身だからということか。メキシコを舞台にした映画で、ぼんやり暇つぶしで視ようと思うと、そのシリアスぶりに驚き、思わず最後まで見入ってしまう映画だった。

オリンピックをめざすメキシコの高飛び込み選手の女性が遭遇するセクハラ・スキャンダルというのが映画の物語。なんといっても主役のカーラ・ソウザの引き締まった身体、切れの良いその運動能力が、まさにオリンピックに出場するアスリートそのもので圧倒される。本物のアスリートが引退して女優に転向したと思ってしまうほどに。

観客が、私と同じように、そのような印象を受けたなら、この映画は成功しているといってよい。というのもカーラ・ソーザ、初めて見る女優と思っていたら、すでにテレビで出会っていた。彼女が有名になったのは、『殺人を無罪にする方法』への出演なのだが、このテレビシリーズを私は最初から最後まで熱心に視ていたわけではなく、CSなどで放送中に時々ぼんやりと視ていたというだけなのだが、いま見直してみると、彼女、第1話から、それも冒頭から出ている。アナリーズ・キーティング教授に選ばれた6人か7人の学生のひとりで、ということは、ほとんど全話に出演していておかしくないレギュラーのひとり。どうして思い出せなかったのかといえば、それは『ダイブ』の彼女には、『殺人を……』の頃の面影はなく、完全にアスリートになりきっていたからである(3年間、トレーニングを積んだという情報もある)。

実際、高飛び込みの映像は、スタントウーマン(あるいはアスリート)を使ったのだろうが、しかし、CGでもスタントウーマン/アスリートでもなく彼女が実際に飛び込んでいるとしか思えない映像もある。そのまま競技会やオリンピックに出場してもおかしくないハイレベルなパフォーマンスを彼女はみせてくれる。とにかく、水しぶきがあがらない、それは見事な飛び込みをみせてくる。

高飛び込みのソロ/シングルでも優勝できるマリエル/カーラ・ソウザは、年齢的に最後のオリンピック出場を目指しているが、14歳の少女と組んでペアの高飛び込みに挑戦することになる。ところが相方の少女の母親が、コーチが娘にセクハラをおこなっていたと訴える。そのコーチは、マリエル自身のコーチでもあって、すぐれた選手をこれまで生み出してきた有能なコーチでもある。涙ながらに無実を訴えるコーチと、コーチの無実を信ずるマリアンだったが……。

という展開で、これ以上はネタバレになるので書けない。

実際にメキシコの高飛び込み選手に対するセクハラがあったかどうか、いまのところ私は確かめていないのだが、ただ、某国(日本ではない)では女性アスリートの7割くらいがセクハラ被害を受け、そのうち6割くらいがトレーナーやコーチからのセクハラだとも言われている実情を念頭に置けば、今回の事件は、メキシコのみならず世界のどこで起こっていてもおかしくない普遍性を帯びる。またスポーツ界だけでなく、いろいろな分野で、こうした事件は起こっているし、その告発も近年相次いでいる。おそらく誰もがこの映画を見ながら、自国で起こっているセクハラ、パワハラ疑惑について考えざるをえない。

次回、そのことを考える。
posted by ohashi at 16:27| 映画 | 更新情報をチェックする