2022年10月24日

大河フォルスタッフ

『鎌倉殿の13人』に関係するネット上の記事に、次のようなものがあった。実朝と和田義盛との関係をシェイクスピア『ヘンリー四世』2部作のハル王子とフォルスタッフのそれと同じだとのこと。

鎌倉殿の13人:実朝&義盛は「ヘンリー四世」に通じる? 柿澤勇人が思う“惹かれる理由 Mantweb. 2022/10/22 07:10

激しい権力闘争が描かれているNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(総合、日曜午後8時ほか)。殺伐とした展開が続いているが、その中で、視聴者の癒やしとなっているのは、三代目鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人さん)と御家人・和田義盛(横田栄司さん)の関係性だろう。実朝は義盛邸に足しげく通い、義盛は実朝のことを親しみを込めて、「武衛(ぶえい)」改め「羽林(うりん)」と呼ぶ。2人のほっこりしたやり取りは見ていて心が和むが、なぜ2人はここまで惹(ひ)かれ合ったのだろう。

柿澤さんは「互いのピュアな部分に共鳴したのでは」と話す。

「実朝は鎌倉殿として君臨しているけど、実権はないし、一筋縄ではいかない御家人たちをどう束ねていけばいいのかすごく悩んでいる。もともと、争いを好まない性格ということも自身を苦しめています。そんな中、御家人の中で荒くれ者だけど、すごく純粋で、誰かを陥れようとか考えてない義盛に惹(ひ)かれていったのではないかと思います。一方の義盛も、実朝の純粋なところが気に入ったのではないでしょうか」

柿澤さんはそんな2人の関係性について、脚本の三谷幸喜さんが、シェイクスピアの名作劇の一つ「ヘンリー四世」のハル王子とフォルスタッフの関係性に通じるものがあると話していたという。フォルスタッフはハル王子の親友で、若き王子に悪事を勧める大酒飲みの老騎士だ。以下略


実朝と和田義盛との関係性に『ヘンリー四世』のハル王子とフォルスタッフを重ね合わせるというのは、作者(三谷幸喜)の意図でもあるというのだ。

なるほど言われみれば、その通りで、上記のインタヴューで、柿澤勇人の発言も、ハル王子とフォルスタッフの関係性によって、さらに説得力を帯びると思う。

もちろんシェイクスピアの『ヘンリー四世』と違うところもある。フォルスタッフは、ヘンリー四世の宮廷で政権を担う有力貴族あるいは騎士ではなくて、夜盗をも辞さないやさぐれていて飲んだくれの老騎士である(フォルスタッフのモデルとなった貴族サー・ジョン・オールドキャッスルのほうは、有力貴族で、御家人ならぬ反カトリック・反教皇勢力に慕われる存在として、各地の反乱に関わり、最後に処刑されたので、和田義盛に似ているところがある)。

一方、ハル王子は、実朝ほど純情ではなく、むしろ北条義時のように闇落ちするような王子であり、最後にはフォルスタッフとの関係を切り捨てる。よく言えば名家のボンボンが、アウトローの世界にあこがれて彼らと付き合うようなもの。しかしむしろ無頼の徒とか貧困層の実態を肌で感じ取り、その経験を国王となったときに国民統制に活かそうとする策士めいたところがあって、純情で繊細な貴公子といはいいたがい。もちろんフォルスタッフのほうでも、この王子との関係を利用して政権の中枢に潜り込もうとする野心をまぎれもなく抱いているのだが。

もちろん、こうした違いがあってこそ、関係性の類似は際立つともいえるので、問題はないのだが、前回の記事で、実朝=ゲイ説で触れた、実朝が和田義盛に魅かれるのも、ゲイ的な感性ゆえのことという私の主張は、10月25日の回「罠の罠」では退けられることになるのだろうか。なにしろ和田義盛には山のように子供がいるのだがら(劇中では息子は二人が登場するが、映像では何十人もの息子がいるような錯覚すらもたらす仕掛けになっていた【実際には息子は10ほどいた】)。これだけ子供をつくればゲイとはいえないのでは。

だが、反日カルト団体である統一教会のみなさんには残念なお知らせがあるのだが、実朝と和田義盛との関係性が、もしハル王子とフォルスタッフに影響をうけているとするならば、ふたりは同性愛で結ばれている。たんなる友情に留まらない同性愛の絆がある。

『ヘンリー四世』の冒頭、はじめてフォルスタッフが登場するときの台詞からすると、ハル王子とフォルスタッフは、同じベッドで寝ていたことがわかる。そこに性的関係が濃厚に匂わされている。シェイクスピアの『ソネット集』の三分の二は、中年の詩人が、若い貴族の男性をほめたたえる同性愛詩だが、この年上の中年男性が若い美少年に寄せる愛は、『ヘンリー四世』にも受け継がれているというか、『ソネット集』(創作年代ははっきりしない)と『ヘンリー四世』は、もしかしたらほぼ同じ時期にかかれ、またそうでなくても、同じような同性愛関係をテーマにしている。

そう、ハル王子とフォルスタッフは同性愛的関係にもあり、それは年上の中年もしくは老年の男が、自分よりも身分の高い貴公子、若き美少年に恋い焦がれる関係である。『鎌倉殿の13人』の場合は、方向は逆だが、しかし、身分が接近すれば、相思相愛の関係に発展しておかしくない。

とはいえ、反日カルト団体の統一教会のみなさんには、それほど悪い知らせではないかもしれないのは、実朝という人物がシェイクスピアの作品ともっとも強く結び付けられるとすれば、それは『ハムレット』であるからだ。悩める青年貴公子として実朝がハムレットと結びつくのではない。

統治者が死んだとき、世襲ならば、その子供・嫡男が後を継ぐべきところ、あろうことか、統治者の弟がしゃしゃりでて、後を継いでしまう。そのため死んだ統治者の息子は、統治者の地位につくことができず、不遇の身となってしまう。

これは源頼家とその子供である公卿(幼名善哉)と、その公卿に殺された源実朝の話ではない。『ハムレット』における先代ハムレット王が源頼朝、その弟クローディアスが源実朝、そして父の敵としてクローディアス(実朝)を殺すのがハムレット(公卿)である。ちなみに公卿は12歳で出家し、18歳で鎌倉にもどってくるが、ハムレットもが学業なかばで大学から故郷デンマークに帰ってくるし、父の仇討のとき、公卿と同じような年齢である可能性が高い。

ハムレットの宿敵クローディアスは、ハムレットの叔父であり、また(母が再婚したため)義父でもあるが、公卿にとっても実朝は、制度的に義理の父ともなっていた。公卿が殺した実朝は、自分の伯父であり、また義理の父であった。

実朝とハムレットが重なると面白かったのだが、実朝は、ハムレットに父の敵として殺されるクローディアスの立場である。そこが残念なところだろう。実朝=クローディアスといのは、あまり魅力的ではないが史実だからしかたがない。

しかし反日カルト団体の統一教会の皆さんが安心するのはここまでで、クローディアスは、基本的にゲイである。そもそも『ハムレット』において、大学生の息子がいるくらいの年齢になった兄がいるといのに、弟のほうは、おそらくずっと独身なのである――兄が死んでから、すぐに兄嫁の女性と結婚するくらいだから、一度も結婚したことがないか定かでないものの、長い独身期間があったことはいうまでもない。

柿澤勇人はミュージカル『ライオンキング』の舞台をみて俳優にあこがれたそうだが、また自身、『ライオンキング』の主役シンバとして舞台に立ったこともあるようだ--私は舞台をみたことはないのだが。ちなみにアニメ版『ライオンキング』では、主人公のシンバの父を殺す、父の弟(シンバにとっては叔父)のスカーは、兄の死後、ライオンキングの地位を引き継ぐのだが、兄の残したメス・ライオンたちのハーレムは引き継がず、ハイエナたちと暮らしている。そこには悪役のスカーが、ゲイであることの暗示がある。つまりアニメ版『らいおんキング』のスカーは、『ハムレット』のクローディアスであり、『鎌倉殿の13人』の実朝である。みんなゲイである。ただし『ライオンキング』の場合、ゲイの悪魔化が行なわれていることには問題があるとしても。
posted by ohashi at 10:13| コメント | 更新情報をチェックする