2022年06月22日

『GLOW』

『プロミシング・ヤング・ウーマン』には、アリソン・ブリーが出ていた(6月16日の記事参照)。アリソン・ブリーとは誰だと思うかもしれないが、映画ではII番目の復讐の対象だった女性。キャシー・マリガンと大学での同期生で、ふたりの共通の友人ニーナからのレイプ被害の訴えにも耳を貸さなかったばかりかもみ消そうとした傲慢な女という役どころだった。まあ復讐されて当然という女性だったが、アリソン・ブリーはこういう役はよく似合う。

しかも『プロミシング・ヤング・ウーマン』では、卌番目の復讐の対象者としてクリス・ローウェルが出演している。この映画のなかではアリソン・ブリーと、クリス・ローウェルとが直接会って話をするような場面はないのだが、この二人は、同じ配信ドラマに出演していた。それが『GLOW』 だった。


いま公開中の『トップガン・マーヴェリック』や『シン・ウルトラマン』は、若い観客層だけでなくというか、それ以上に、リアルタイムでかつて見ていた中高年層にも受け入れられていてヒットしているとのこと。中高年世代にとっても、過去の人気作品への愛とオマージュにあふれたふたつの映画は、ノスタルジックな感興とともに、嬉しい贈り物といえるのかもしれない。

私にとって、そうした懐かしくて胸躍るような映画やドラマのひとつに、Netflix配信のオリジナルドラマ『GLOW: ゴージャス・レディ・オブ・レスリング』(原題: GLOW、グロー)がある。このドラマにレギュラーとして登場していた二人アリソン・ブリーとクリス・ローウェルが『プロミシング・ヤング・ウーマン』に登場していたことから、あらためて思い出すことになった。

Wikipediaの説明によると、『GLOW 』 は、

2017年から2019年に放送されたアメリカ合衆国のコメディドラマシリーズ。1980年代の南カリフォルニアと南ネバダを舞台に女子プロレスの世界を描く。(中略)Netflixにより制作され、2017年6月より世界同時に配信された。

番組は批評家から好意的な評価を受け、プライムタイム・エミー賞のコメディ・シリーズ作品賞にノミネートされた。

作品はシーズン3まで公開され、当初は最終となる第4シーズンの制作が決定し、一部の撮影についても行われたが、2020年3月頃から世界規模で感染が拡大した新型コロナウイルスの影響により、制作が中断。制作を再開しても新型コロナウイルス感染防止のための対策や経費などが発生することから、Netflixは本ドラマを打ち切ることを同年10月に発表した。


日本でのこの配信ドラマの紹介をみてみると、GLOWというのがドラマのなかだけの架空の団体というか存在であるかのように扱っていたり、あるいはGLOWについてよくわからないままドラマについて解説するものがあって、かつてのというか初期GLOWのファンであった私は頭をかかえるしかないのだが……。

GLOWという団体は実在した。日本版Wikipediaによれば、

GLOW(Gorgeous Ladies of Wrestling)は、アメリカの女子プロレス団体。

歴史:1986年、プロモーターのデービッド・マクレーンと占星術師のジャッキー・スタローンが設立。北米では初めてとなる女子プロレス団体が誕生。ラスベガスのリヴィエラホテルで試合を収録して後日、テレビ番組として放送する形態を採っていた。【ちなみに占星術師のジャッキー・スタローンというのはシルヴェスター・スタローンの母親。2020年9月20日に98歳で亡くなっている】

1990年のシリーズ(シーズン4)を終えた後に解散。

2001年に復活して現在に至る。


私はアメリカ人ではないので、GLOWの放送をリアルタイムでテレビではみていない。日本のテレビで観た記憶はなく、外国でテレビで観た記憶はあるし、またDVDでも観ていた――レンタルだったか、購入したのか忘れたのだが。

いや、そんなあやふやな記憶で大丈夫かと思われるかもしれないが、初期シーズンのGLOWの主な試合と個性あふれる選手たちのことはいまもよく覚えている。もちろんGLOW全体の雰囲気は、Netflix版『GLOW』から想像してもらってよい。差別寸前というか完全に差別の対象となる多彩な悪役と、当時のハイレグのレオタードを身にまとったファニーフェイスとの嘘っぽい芝居がかった勧善懲悪試合が、ラスベガスのホテルの大ホールにしつらえられリング上で展開していた。現在日本にある女子プロレス団体(こちらのことは、実はあまりよく知らないのだが)の本格的な(というのは、男子プロレス顔負けの)試合からしたら、素人のお遊びのような試合だが、しかし、Netflix版『GLOW』もそうだが、実在したGLOWの試合も、訓練を積んだうえでの高度な技の応酬もあって、格闘技としての最低限の要件は満たしていた。そして基本は、健康的なアスレチックな身体パフォーマンスというよりも、エロティックで扇情的なショウアップされた疑似格闘技的パフォーマンスであった。

Netflix版でアリソン・ブリーが演ずるのは、ルース・「ゾーイ」・ザ・デストロイヤーというレオタード姿のロシアの女性士官という役どころでが、彼女は、実際のGLOWでは「カーネル・ニノチカ」(ニノチカ大佐)である。Netflix版は、そのドラマ化である。

カーネル・ニノチカは、GLOWのなかではKGBの士官という役どころで、GLOWのスターであるミス・アメリカーナ(Netflix版ではリバティー・ベル)とメインイヴェントで何度も死闘を繰り広げることになる。彼女がロシア軍人としてアメリカ人観客の憎しみを一身に集め、またその巻き舌のロシア語なまりの英語で観客を挑発しまくるというのはNetflix版も同じ――まあ、時代は、PC以前の冷戦時代の真っただ中だった。

ただ実際のGLOWではカーネル・ニノチカは金髪で、対抗馬のミス・アメリカーナが、ブルネットであったのに対し、Netflix版ではアリソン・ブリー扮するゾーイはブルネットで、リバティー・ベルが金髪となっている。

ああそれにしてもヒコーキについての知識は、恥ずかしいと書きつつも、ヒコーキファンの知識人(稲垣足穂とか宮崎駿など)の存在を考慮すれば、実は、それほど恥ずかしいことではない――変人と思われるとはいえ(6月9日の記事参照)。しかし、GLOWについてのこの知識――アリソン・ブリー扮するゾーイは、実際のGLOWではKGBのカーネル・ニノチカで金髪であるという知識――は、いったい誰がありがたがる知識といえるのか。ただ一途に恥ずかしいだけの知識ではないだろうか。

なお、当時のテレビ放映では、GLOWの選手全員がラップを歌い、また試合の途中に、くだらない、ほんとうにくだらない(そしていまからみると、ほんとうにくだらなくて、すばらしい)寸劇を入れていた。当時の放送がどんなものだったのか、Netflix版のシーズン2のエピソード8を通して知ることができる。このエピソードではドラマはなく、当時の番組(試合と寸劇)の疑似再現によって全体が構成されているのだから。
posted by ohashi at 23:29| コメント | 更新情報をチェックする