恥ずかしながら、この二、三か月、私はプラモデルを作っていた。中国のプラモデル・メーカーであるトランペッター製のロシアの戦車T-80である。
部品が1000個近くあるのだが、それを聞くと、どんなに大きなプラモデルを作っているのかと呆れる向きもあろうかと思うのだが、1/35の縮尺で、ミリタリーの戦車モデルとしては標準の大きさである。両手に乗るくらいのサイズ。
そもそもロシアの戦車は、そんなに大きくない。アメリカの主力戦車、M1A2エイブラムズよりも小さいのではないか。ただ小さい分、軽快な運動性を誇り、プラモデルの箱絵でも、ジャンプしているロシアの戦車が描かれることもある。バイクレースでジャンプするオートバイ同様、戦車がジャンプするのである(たぶんエイブラムズにはできないことである)。
また実際、第二次世界大戦中にロシアのT-34ともに戦った重戦車KV-1とT-80は同じくらいか、もっと小さいかもしれない。今は放送しなくなったが少し前までCSでロシアの軍事兵器を紹介するアメリカのドキュメンタリー番組があったが、そのなかで巨漢のレポーターは、T-80の操縦席に乗り込めず、ほぼ上半身を出したまま戦車を操縦することになった。またそこに登場する本物の戦車兵は、小柄だった(ちなみにこの番組でT-80がカッチョイイと思った私は、T-80のプラモデルを注文していた)。
また部品が1000近くあっても、たとえばキャタピラーは、一体成型ではなく、ひとつひとつくみ上げるタイプなので、それだけで200から300くらいのパーツを使う。1000のパーツはそんなに驚くほどのものではないし、すでに述べたように、モデルも大きいものでもない。
とはいえパーツの多さは、たとえ外形だけに限られていても(つまり、戦車の内部は造られていない)、簡単な短期日の完成を阻むものであるので、あせらず、暇をみては、少しずつ組み立てた。もし毎日没頭して組み立てたら、しなければいけない仕事に支障をきたすだけでなく、日常生活そのものにも支障をきたすことはわかっているので、絶対に没頭しないよう心がけている。
そしてロシア軍のウクライナ侵攻が始まった。
こうした陸海空の兵器のプラモデルというのは、兵器そのものの特徴ある形態やデザイン面でも造型意欲を掻き立てるものであって、兵器モデルはプラモデルのなかでも(ガンダムモデルを除けば)花形といってもいい。ただし、それは平和なときの話。
ウクライナ侵攻でロシア軍の戦車がウクライナの街を破壊しつくして廃墟にし、民間人の虐殺に貢献してることを想像するだけでも、ロシアの戦車のプラモデルを組み立てる意欲は消えた。おそらく、この未完のプラモデルは、早晩、廃棄されることだろう。
ただ、べつに老化を防ぐということだけでなくとも、手を動かしていたい、こまかな手作業をつづけていたいという意欲はあって、そうだ同じ戦車プラモデルで、ウクライナのT-84がトランペッター製品にあったと思いだし(T-84はロシア軍のT-80をもとに開発された)、注文購入しようとして、AMAZONや、プラモデル通販サイトを覗いてみて、愕然とした。
プラモデル通販サイトでは、ウクライナのT-84戦車が、人気で、注文数が増加していることがわかった。まあプラモデルファンなら誰でも同じことを考えることがわかったし、それ以上に、私がそんなことを考えたこと自体、恥ずかしくなった。
戦争の惨劇がウクライナで続いているときに、そんなかたちで戦争と戯れるのはまちがっている。もしロシア軍の戦車が日本に侵攻していたら、民間人として作るべきはロシアのT-80 のプラモデルだろう。大急ぎで組み立てて、それを、戦車を回避する方法、あるいは有効な攻撃法を探ることに役立てることができるかもしれない――そんなことで役立つとは思えないとしても。ロシアのT-80はやめてウクライナのT-84を組み立てみようというのは、毎日ウクライナの惨状が報道されている国に住んでいるのに、緊張感も倫理観も想像力もすべてがなさすぎる。あまりに能天気である。恥を知るべきである。
実際のところ、今の私にはプラモデルを作っている時間的余裕はまったくないのだが、もし余裕ができたとしても、おそらく自動車かバイクのプラモデルを作ることだろう。
2022年04月03日
プラモデル T-80
posted by ohashi at 19:05| コメント
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