2022年3月10日に岩波書店よりテリー・イーグルトン『希望とは何か』を翻訳出版した(単独訳)。この翻訳について、思うところをいくつか断続的に記しておきたい。
今回は第2回目、題して「希望?」
2021年12月にはテリー・イーグルトンの『文化と神の死』(青土社)を翻訳出版した。これはけっこう大部な本で、しかも哲学的神学的で地味に難解な本かもしれず、その時点で読者が期待をもって手にするような本ではなかったかもしれないが、今回の『希望とは何か』の出版によって、興味をもたれる読者もいるのではないかと考える。
と同時に『文化と神の死』は、宗教的転回をし、また文化ならびに文化研究について考察しつづけているイーグルトンの、いかにもイーグルトンらしい本で、イーグルトンを知っている読者なら、たとえ手に取らないとしても、さして違和感をもたないに違いない。
ところが、この『希望とは何か』については、え、何? イーグルトン、希望?といぶかる読者もいるようだ。イーグルトンを知っている読者なら、なおさらそうかもしれない。
たとえばイーグルトンの『唯物論とは何か』――もし翻訳出版されるなら『マテリアリズムとは何か』となるかもしれないが――、『倫理とは何か』、『悲劇とは何か』、『犠牲とは何か』、『文化とは何か』、『ユーモアとは何か』という本なら*、読者も安心するかもしれないが、『希望とは何か』というのは、あまりにイーグルトンらしからぬ、またこのご時世におもねるような、あるいは自己啓発本めいたもののようで、多くの読者にとって違和感マックスかもしれない。
しかも原著は2015年。なぜあの時点で、「希望」なのかという違和感は私も抱いていた。そうしたこともあって、あのような、訳者あとがきの冒頭となった。
また私自身、最初はこの本をとくに翻訳したいとは思わなかった。岩波書店から依頼されなかったら、私としては、この本を翻訳しなかったと思うのだが、いまは、この翻訳をしてよかったと思う。岩波書店にも感謝したい。比較的薄い本だが、「希望学大全」とでもいうべき本であり、「希望」について改めて考えることができた。
*ここに列挙した本は、未訳のイーグルトンの著作のタイトルを、少しアレンジして示している。『文化とは何か』は、すでに松柏社より翻訳出版されているのだが、原著のタイトルはThe Idea of Culture。その後、イーグルトンはCultureという本も出していて、そちらの本を指している。
