2022年01月10日

『タイムクルセイド』

タイム・ループ物のB級映画をみすぎていて、いつのまにかタイム・リープあるいはタイム・トラベル物の映画もいっしょに見てしまうことになった。そこで、純然たるタイム・リープ物映画ではないが、気になった映画について感嘆にコメントしておきたい。

『タイムクルセイド』はいかにもB級映画というイメージなのだが、それは誤解で、オランダで高い興行成績を収めたメジャーな映画である。

オランダ・ベルギー・ルクセンブルク・ドイツの合作映画。オランダでは大ヒットしたとのこと。なお映画は、2時間5分のヴァージョンと1時間40分のヴァージョンがある(私が観たのは100分ヴァージョンのほう)。また使用言語は英語。英語のタイトルとしてはA March Through Time。

監督のベン・ソムボハールトはオランダでは有名な監督らしく、過去にその作品がアカデミー賞の外国部門賞を受賞したこともあるらしい。原作はオランダの女性作家テア・ベックマンの有名なジュヴナイルもしくはヤング・アダルト作品(『ジーンズの少年十字軍』(上・下)西村由美訳、岩波少年文庫2007)。原作のほうは読んでいないのだが、12世紀にタイムトラベルをするのは同じだが、その他の設定などは、原作とは大きく異なっているらしい。

原作の愛読者からは、原作のもつひねりや深さを活かしていないことへの不満があるようだが、それは原作を読んでいなくても、この映画の、いかにもハリウッド映画的なフォーマットの物語から充分に推測できることだが、ただ全体的にハッピーエンディングなので、家族向きの映画なのかもしれない。初等・中等教育の場で教材としても使えそうだし。

主役のジョニー・フリンはNHKでも放送していたBBCだったかのテレビ版『レミゼラブル』に出演していたし、未見だが英国のテレビ版『エマ』にも出演しているらしい。彼の母親で科学者のエマ・ワトソンは有名な女優だが、一応、中世の歴史再現性とタイムマシン装置のSF的設定においえ、金のかかっている映画であることはまちがいない。

少年十字軍について、ネットではこの映画で初めて知ったというレヴューがけっこうあったが、今はそういう時代なのか。私は子供の頃、少年十字軍の話を知り、ひどい話だと思ったことがある(もちろん現在では研究がすすんで、いろいろな説があるようで、ほんとに何が起こったのかわからないとしても)。この映画でも、12世紀の少年十字軍がたどった過酷な運命を再現しつつも、タランティーノの『ワンス・アポン・タイム・イン・ハリウッド』と同様、最終的な悲劇は回避されるので、映画ならではのファンタジーを成立させている――タイムトラベル物としては同じ時間軸の過去へ行くのではなくパラレルワールドの過去へ行くというファンタジーになる。過去ではなくパラレルワールドへというのは最近のタイムトラベル物にごくふつうにある設定である。

あと、オランダ人がみんな英語を話し、12世紀の住民たちも何不自由なく英語を話すという設定に違和感を抱かなければ、家族向きの映画として推薦できる。

12世紀に21世紀の青年(原作とは設定がちがう)がタイムトラベルしたので、当時としては目立つはずで、絶対に古文書に記録が残っているはずだということで、古文書を精査して、科学者(主人公の母)が主人公の居場所を突き止めるという設定は面白かった。

というのもこれはタイムパラドクスとも関係するが、過去に行って何をしようとも、歴史は変えられないという考え方である。未来からやってきた青年が、風変わりなよそ者として、奇跡を起こす物語が作られ伝承されるだけであって、タイムパラドクス的要素は、どんどん吸収されて新たな時間軸あるいはパラレルワールドができるだけで、いまの世界が崩れるわけではない。

あと、中世の彩色写本の、素人が描く漫画みたいな絵のなかに証言と真実が記録されているということは、映画の物語が、そうした偉人伝なり秘跡物語に等しい現代の寓話的存在であることを示唆しているとみることができる。映画ならではの自己言及的なメッセージである。
posted by ohashi at 23:01| 映画 タイムループ | 更新情報をチェックする