私の入院した病院は、感染症対策設備のない病院なので、コロナ感染者で重症の患者はいない。抗原検査やPCR検査を病院内で受けたが、入院患者はいなかった。だから病床不足でひっ迫しているこの時期、重症患者の病床を、感染症とは関係のない病気で入院した私がひとつ占めてしまうということはなかったので、ほんとうにほっとした。
逆にいうと、病床不足で私の手術・治療ができないのではないかと心配していたが、そういうことはまったくなかった。そして入院・手術費も予想していたよりも安かった。ありがたいことに。
前回入院したときには、個室を希望したが、入院したら個室がつまっていて、4人部屋にまわされたが、ただ、そもそも個室希望であることが伝わっておらず、手術後どうしたものかと思っているうちに、退院許可が下りたため、個室に入る機会を完全に逸してしまったが、今回は、むりに個室に入る必要もないと思い、最初から4人部屋にした。カーテンで患者の区画が区切られていて顔はわからない。またみんなマスクをしているために、たとえ町で出会っても、たがいに相手が誰だかわからない。
そんななか私よりも早く退院する同室患者が病院の職員から入院費や退院手続きなどについて説明を受けていた。カーテン越しに聞こえてくる会話から、入院費がいくらかを気にしていて職員に概算を聞いていることがわかった。職員はメモを渡したようだが、患者本人が、金額を声に出していうので全部わかってしまう。最初に保証金を病院に渡しているので、入院費には、保証金プラス追加金ということになるが、漏れ聞く限り、たいした額ではない。
それを妻が現金でもってくるというのだが、まるで銀行から1億円おろして、その札束をもってくるような大仕事のような口調で話している。そのバカ・クソ・ジジイが。
実際には数万円のようだ。病院の職員も、クレジット・カードで支払えますよと伝えている。すると、そのクソジジイが驚いて、え、あの、データ・カードで?と職員に確認している。
クレジット・カードで入院費が払えることは入院案内の冊子にも書いてあった。高額の現金をもって入院するのは嫌なので、私は最初からクレジット・カードで払うつもりだった。しかし、その老人は、クレジット・カードと聞いて驚いている。いやそもそもクレジット・カードを知らないのか、「データ・カード」と言っている。今の日本で、クレジット・カードのことをデータ・カードという人間がいるのか。というか「データ・カード」と「クレジット・カード」は別の物でしょう。包含関係もない。パラレル・ワールドからやってきたのかと、心のなかで、つっこみを入れまくっていた、このバカ・クソ・ジジイに。
移転して新しくなったこの病院で、退院手続きをするのは初めてだが、入院費はクレジット・カードで払うことにした。そこまではよかったのだが、使われるクレジット・カードの暗証番号を入れてくださいと器具を渡されて、気づいた。クレジット・カードの暗証番号がわからない。通販で買うときには、暗証番号は必要ない。キャッシュレス時代に、外出先でクレジット・カードを使ったことはなかった(自粛生活ならなおさらである)。通販には暗証番号は必要ないので、なんの不自由もしなかったし、いまもしていないのだが。
暗証番号を知らなくても、クレジット・カードによる支払いはできたので、よかったのだが、このことを妹に話したら、クレジット・カードの暗証番号を知らないか、忘れるなんて、おまえはクソ・バカ・ジジイだといわれた。
いや、最初から知らないのだから強盗に襲われて拷問されても、クレジット・カードの暗証番号を伝えることはないと、妹に言ったら、暗証番号を伝えたら、金は失うかもしれないが、命は助かるかもしれない。しかし、暗証番号を最後まで伝えなかったら、隠していると思われてぼこぼこにされる。それでも伝えなかったら、腹いせに殺されるかもしれない。やはりおまえは、クソ・バカ・ジジイだといわれた。