隠れ感染者の若者というのがいると、もっともらしく吹聴するコメンテイターがいる。
PCR検査で陽性になった若者が、若い世代は症状がでないか、軽症ですむ。また陽性であることがわかると、職を失いかねないので、黙っている。その間、通常通り仕事をして周囲に感染させていくが、本人は絶対に口を割らない。
この話のねらいはなにかというと、PCR検査をして陽性でも隠してしまう人間がいるので、陽性者の実像がわからない。PCR検査をしてもしなくても、わからないものはわからない。だから今なお続く政府のPCR検査の拡大に消極的な政府の姿勢を、肯定するということになる。
これにつづくのが、PCR検査を増やしてくれという声に対して、国民の声を聞くことは重要だが、空気に流されていけない(つまり国民の声など聞くな)という応援団・ネトウヨ・ファシストの主張である。
そしていまだに、いまPCR検査で陰性でも、10分後には、陽性になるかもしれないというずいぶん前に聞かれた主張を繰り返す馬鹿が、テレビの番組にいた。可能性としては誰もが10分後に陽性になるかもしれないし、誰もが明日、死んでいるかもしれない。しかし、それは蓋然性に乏しい。いったい10分後に陽性になるというのは、不幸にもクラスターが発生した病院のなかで働いている医療関係者なら話はべつで、通常の日常生活のなかで、いったいどういう状況になったら、どういう行動をしていたらそうなるのか? 教えてほしいものだ。
またPCR検査にしても、いまもなお検査を受けたくても受けられずに、それで死んでいく感染者がいるというときに、全国一斉ではなくても、地域、地区ごとにローテーションを組んで検査しているわけでもない。濃厚接触者となったり、医師の診断によって、やむをえず検査することを求められるというケース以外に、検査を受けるのは、きわめてまれであろう。無症状なのに検査をうけたら陽性という人間は、ほんとうにどれくらいいるのだろうか。また、さらに症状が軽いから黙っていたという若者いても、数はきわめて少ないはずである。
そもそも感染者が逃亡して行方をくらましたらべつだが、保健所が、医療機関が、陽性反応がでた感染者を把握していないということはない。感染者の数は明確にでる。ただ、その後、その感染者が逃亡したり、ふだんどおり仕事をするということになれば、感染の危険性は増すだろうが、重症化して逃亡も黙秘もできない状態になる者も多いはずだし、軽症者でも適切な治療を受けずに重症化する人は多い。
PCR検査したら隠れ感染者がふえるというのは名目上のことで、実質的にはPCR検査をしてもしなくても、隠れ感染者は存在する。だから検査をしなくてもいいということにはならない。検査することによって生ずるメリットは大きいのである。感染状況がわかり、また感染者を救える可能性が増える。
さらにいえば、たとえばGo toトラベルやGo toイートで不正をする者がでてくる。しかし、その不正をする一部のものがいるからといって、Go to イートやトラベルを辞める気配はない。ならば隠れ感染者がでるから、PCR検査をしないというのは理屈に合わない。しかもGo toトラベルはやめれば、Go to トラベルで不正を働く人間は名目上も実質的にもいなくなるのだが、PCR検査を辞めたら、隠れ感染者は実質的にいなくなるかというと、なくならない。気づかない感染者が増えるだけである。
こんなことは、数ヶ月も前に決着をしていたはずなのに、またメディアやネットでの政権応援だの雑音が大きくなったのは、政権そのものの危機意識のあらわれであろう。そして私たちとしても、政権が続こうが倒れようが知ったことではないが、私たち自身が、この感染拡大のなかで犠牲になることだけは最小限にとどめたいという思いは失いたくはない。