2020年01月11日

『パラサイト』2

一般上映がはじまったばかりだが、先行上映でみてしまったとはいえ、まだネタバレはしないので、パラサイトについての一般論を。

トリクルダウン理論というのがある。トリクルダウン理論(trickle-down effect )とは、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論であるが、立証されていないため「トリクルダウン仮説」とも呼ばるとWikipediaにある。

この理論では、富を蓄積するのは上層の富裕層である。そして富裕層が富めば富むほど、その富のおこぼれを貧困層は受け取ることになり、最終的に貧困層はなくなるということだが、現在、世界中で中間層が没落し、半地下生活を余儀なくされ、貧困層はふえることこそあれ、減ることのない格差社会ができあがっているときに、このトリクルダウン理論は、仮設どころか、ただのイデオロギーにすぎなくなっている。つまり大嘘だということである。

ただ留意すべきは、このトリクルダウン理論は、パラサイト理論でもあるということだ。富裕層に寄生していれば貧困層もなんとやっていける。富裕層の失敗は貧困層にもろにはねかえってくるのだが、ただ、富裕層が元気で潤っていれば、貧困層もそれに寄生して安泰であるという理論である。

パラサイトとは、自分で汗水たらし頭脳や身体を酷使して収益をあげ金銭を稼いだり資産を増やしたりせず、富をもっている者に寄生して、そこから富を吸い取る犯罪者的な卑怯者であるとすれば、ほんとうのパラサイトは誰かということになる。

お金を持っている人間から金をしぼりとればいいというのは古典的な社会システム論である。現代の社会では、富裕層が貧困層からお金を吸い取っている。かつて『マトリックス』という映画があって、未来の地球では人間は人間乾電池として体内の微弱電流を利用されるために、容器に入れら眠らされている。眠りのなかで地球上で通常の生活を送っているという夢をみせられる。未来の地球上の暮らしは幻で、ほんとうの現実は、人間乾電池として水槽に浮かんでいる人間たちの群れとなる。

確かに人間の体内には微弱電流があるのだが、それをいくらあつめたところで巨大コンピューターを動かせるほどの電気が生まれるわけはないという、映画に大差いる批判があったが、たぶんその批判は正しいのだろう。しかし、これはコンピュータを動かす話ではなくて、現代の経済システムの話である。現在は、世界中にたくさんいる貧困層から、さらにお金を搾り取るシステムである。貧民ひとりひとりから搾り取れるお金はたかがしれている。しかしそれでもたくさんの貧民から少額でもしぼりとれれば、巨万の富になる。貧しい者は骨の髄まで搾り取られる。なにもしない富裕層から、苦しむこともなく、必死で働くこともないひとにぎりの富裕層が、貧困層からしぼりとれるだけしぼりとる。貧困層がふえればふえるほど収益はあがる。富裕層は肥え太る。そう、富裕層こそ、唾棄すべきパラサイトなのだ。このパラサイトを社会が一掃しない限り、人類に未来はないだろう。

庶民(中間層、貧困層)が自分はパラサイトだと卑下しているうちには、搾取されるだけである。真のパラサイトは富裕層である。庶民は、自分たちがパラサイトではなく、パラサイトの犠牲者であることを自覚することが必要であろう。一歩踏み出すためにも。
posted by ohashi at 19:07| 映画・コメント | 更新情報をチェックする