このディズニー映画はみるつもりはなかったのだが、監督がマーク・フォスターだと知って、これはみるべきだと映画館に。マーク・フォスター映画だから、そんなにへんな映画にはならないだろうという予感はあった。
私がマーク・フォスター作品と出逢ったのは『チョコレート』Monster's Ball (2001) からである。この映画に関して、ひとつだけ(何度も語ってきた)思い出話をいえば、某アメリカ文学の翻訳者(頭文字はA)が、この映画を新聞で紹介・映画評をしていて、白人男性と黒人女性が、人種差別が激しい街で恋人どうしになってつきあっていても、街の人たちが、なにもいわないし、無関心なのは、なぜかと自分で問題提起して、それは二人が、それぞれ、それほどまでに孤独な生活をしているからだと書いていた。あほかと思った。
なぜ街の人たちが何も言わないかについて、映画のなかで明確に説明している。白人男性の父親が、黒人女性(ハル・ベリーなのだが)にむかって、おまえが、うちの息子の相手なのか、まあ白人の男たる者、黒人の女を愛人というかセフレにすることが、昔から男の甲斐性みたいなものだと語るのである。ショックを受け、憤慨した黒人女性のほうは、白人男性との関係を絶とうとまでするのだが、これは映画の衝撃的なエピソードのひとつでもある。そのAは、試写会で寝ていたのか、あるいは外国でこの映画をみて英語が聞き取れなかったかのいずれかであって、問題提起はいいが、答えがまちがっている。また白人男性が黒人女性を性的対象として扱うことは、アメリカ文学研究者にとっては、けっこう常識化している認識であることをあとで知ったので、ますますAは馬鹿だと思った。
『ネバーランド』Finding Neverland (2004) 監督はピーター・パンの作者ジェイムズ・バリーを主人公(ジョニー・デップが演ずる)にして、ピーター・パン誕生までを描く文芸映画。『スウェー★ニョ』 Sueño (2005)は見ていないが、同じ年に製作された『ステイ』Stay (2005)には、これは衝撃を受けた。
『ステイ』Stayについて、以下の解説を参照
「チョコレート」「ネバーランド」のマーク・フォースター監督が、生と死、夢と現実の狭間のような奇妙な時空をさまよう主人公の姿を描く異色スリラー。時空が歪んだ不思議な世界観が斬新なヴィジュアル表現で鮮烈に描かれてゆく。出演は「スター・ウォーズ」シリーズのユアン・マクレガー、「キング・コング」のナオミ・ワッツ、「きみに読む物語」のライアン・ゴズリング。
ニューヨークの有名な精神科医サムが新たに受け持つことになった患者は、ミステリアスな青年ヘンリー。予知めいた能力を持つヘンリーは、3日後の21歳の誕生日に自殺すると予告する。一方、自殺未遂経験を持つサムの元患者で恋人のライラは、自分と同じ自殺願望を持つヘンリーに興味を抱く。やがて、誕生日を前についに行方をくらましてしまったヘンリー。彼を救おうと必死で行方を捜すサムだったが、次第に彼の周りで、現実の世界が奇妙に歪み始める…。
とこれだけでは、わからないと思うが、この『ステイ』、『ハムレット』の驚異的なアダプテーションなのである。筋立てだけはわからないが、登場人物名がアナグラムになっていて、『ハムレット』作品を強烈に連想させるものとなっている。『ハムレット』のアダプテーションのなかでは異色中の異色作。
『 主人公は僕だった』Stranger Than Fiction (2006) は、強烈なメタフィクション作品で、『ステイ』とともにこの路線をつづけるのかと期待をもったのだが、つぎの『君のためなら千回でも』The Kite Runner (2007) は、その反共・反アラブプロパガンダの、フェイク・ドキュメンタリ―的原作に怒り心頭に発した私にとって、映画化の監督に罪はないとしても、かなり落胆した。
そもそも、この作品(『君のためなら……』のなかのあるエピソードは、パレスチナの作家ガッサーン・カナファーニーの『太陽の男たち』のパクリだ。パレスチナ人の小説など読まないアメリカ人の世界では通用しても、他の世界では通用しないことを、日本の読者は声をあげて糾弾してもよかったのだが、カナファーニーのこの小説を読んでいる読者があまりにも少なすぎたようだ(『太陽の男たち』は、カナファーニーの代表作であることはまちがいないが)。
『007 慰めの報酬』Quantum of Solace (2008) と『マシンガン・プリーチャー』Machine Gun Preacher (2011)はアクション映画、それなりに面白い。『ワールド・ウォーZ』 World War Z (2013) のZとはゾンビのこと。異色のゾンビ・映画で、けっこう感銘を受けたのだが、なかでもイスラエル人の生き残りたちが、ゾンビが這い上がれない高い壁を築き上げて、そのなかに避難して生存しているのだが、それが、あることから壁が乗り越えられ、ゾンビたちに蹂躙されてあっというまに全滅するエピソードがあった。そのエピソードにおけるイスラエルと壁の連想系の皮肉な結末に、心のなかで拍手した。
『かごの中の瞳』All I See Is You (2016) は、いま現在、上映中。そして最新作『プーと大人になった僕』Christopher Robin (2018)。つづく
