The Edge of Seventeen(2016)が、どうしてこういうタイトルになるのかよくわからないが、予告編をちょっとみだたけでは、観たことのない10代の女優がでている青春映画というか不良映画だろう、けっこう痛い映画かという勝手な先入観をもった。ところが見てみたら、私のような中高年の男にも、めちゃくちゃ面白い映画。よくある話だともいえるのだが、主役のヘイリー・スタインフェルドの強烈な毒舌といじけぶりがすさまじく、また下ネタを満載で、とにかく笑える。彼女がゴールデングローブ賞にノミネートされたのはよくわかる。
高校の教師役のウディ・ハレルン(良い味を出しすぎ)と母親役のキーラ・セジウィク(テレビの『クローザー』で主役だった)がしっかり脇をかためているし、全員が、結局いい人ばかりで、痛いところがありそうでまったく痛くない青春ラブコメ成長物語となっている。まあ新しい若き喜劇女優の誕生かと思ったが……。
ヘイリー・スタインフェルド、調べたら『トゥルー・グリット』(映画館で観た)の、あの女の子。彼女は、この『17』の最後で、一皮むけた美人の大人の女性に変貌するのために、ちょっとわからななかったのだが。いや『はじまりの歌』(映画館で観た)にも出演していたのだが、どこにいたのか思い出せない。しかも彼女、アメリカ映画の『ロミオとジュリエット』にも出演している。ジュリエット役でもある(アメリカ版のAmazonビデオでみるしかない)。ということで、ヘイリー・スタインフェルド、すでにいろいろな映画にでている、若きヴェテラン女優だった。その実力は折り紙付きとでもいうべきで、『トゥルー・グリット』からずっとみているのに気が付かず。これぞボケ中高年の真骨頂というべきか。
とはいえ今現在(5月17日)、関東では東京のシネマカリテとヒューマントラスト渋谷、あと吉祥寺オデオンでも週末から上映するらしいが、この3館だけでは惜しい。ふつうに面白い映画だからもっと多くの人にみられるべきだろう。
ちなみに彼女が男性とのデートに出かけるとき、口臭スプレーかワキガスプレーかわからないものの、口の中と、脇の下にシュッとしたあと、スカートのすその方から手を入れて、自分の股間にシュッとスプレーする。これは、けっこうよくある、ギャグみたいなものだが、今回の映画は、その先をいっていて、ヘイリー・スタインフェルドは股間にスプレーした後、スカートの上から股間を抑えて、沁みる、沁みると、言いながら、へっぴり腰で部屋を出るのである。これ、おかしいし、こういうの大好きだい。
なお内容について。ヘイリー・スタインフェルドは、皆から愛され世渡り上手の兄と比較され、また自分でも兄と比較し、いじけているのだが、兄への近親相姦的欲望が根底にあることが、この映画の、あまり意識されることのない通奏低音となっている。自分の友達が兄とできてしまうことで、友情が破綻するというのは、おかしい、変だ。友人が身内(この場合は兄)と結婚することは、ふつうならうれしいはずであって、怒ることではない。唯一の友達を兄にとられる、あるいは友達が兄に向い、自分(妹)を捨てるからという理由はあるが、友が兄と結婚でもすれば、その友とは義理の姉妹となるはずで、絆は強まるはずである。そうならないということは、兄をめぐって友人と彼女がライバル関係になるということだろう。兄への憎しみは兄への愛の裏返しでもある。愛憎は表裏一体化している。そのむすぼれがいかにして解きほぐされるかが、この映画の物語の中軸を形成するだろう。映画は、だれもが納得するようなハッピーエンディングになっているが、最終的に諦念をふくみこんでいるようにもみえる。