実は、その前に、サントリー美術館の「絵巻マニア展」に。こちらは午前中だったこともあり、連休中にもかかわらず、そんなに人がいなくて、じっくりみることができた。とはいえ、私のまったく知らない世界なので(正直なところ、付き合いでついていったので)、さすがに、こちらには予備知識も何もない。ふだんは使わないイヤホンガイドで会場をみてまわった。これがあって助かった。さもないと何をどうみていいのかもわからなかったので。
ちなみに出口にイヤホンガイドを置いていく箱が用意してある。まあどこの展覧会でもそうだが、私が出ようとしたとき、箱はからっぽでイヤホンガイドはおいていない。会場で、イヤホンガイドを使っていた人は私以外にも何人もいたのだが、その人たちは会場からまだ出ていないのか、それともスタッフがすぐに片づけたのか、いぶかしい思いのまま、展示会場を出た。
売店では、ふつうめったに買わない絵葉書を購入した。オナラというか放屁合戦の絵巻の一部である。とはいえ面白い絵葉書だが、実際に、使えないので、永久保存である。
そしてミッドタウンから坂をおりて国立新美術館へ。
草間彌生展は混んでいるので、最初からあきらめてミシャ展へ。とはいえミシャ展も相当な込みようで、国立新美術館で、こんなに人がいるのは初めてだったのだが、それ以上に、ミシャ展、スラヴの叙事詩の連作、でかい。サントリー美術館で、ちまちまとした絵巻の絵を展示ケースのガラスに顔をおしつけるようにしてみていた私にとって、この大きさハンパじゃない。絵から遠ざかって見上げないと全体像がつかめない。そのため前に人がたかっていても全然気にならないほど。とにかくでかい。
いったいどうやってこんな大きな絵画をもってきたのか、空輸? 船便? それが知りたくて図録を買おうとしたら、売店に長蛇の列が。ずいぶん並んで当日券を購入したのだが、またここで図録を買うために並ぶ? 今回はあきらめて出直すことにした。
ミシャの連作のなかでフス戦争を扱ったものは、ヤン・フスとイングランドのウィックリフとの関係もあって、英国史や英国文化に関心がある者には、とりわけ興味深いものがある。フスもウィクリフも反カトリック運動というか当時の教会の腐敗を告発したことで、両者には影響関係があったし、シェイクスピアのフォルスタッフのモデルになったというか、フォルスタッフに改名するまえの人物名であったサー・ジョン・オールドキャッスルとも関係があったようだ。ジョン・フォックスの『殉教者列伝』のサー・ジョン・オールドキャッスルの項目にはフスとの関係が延々と論じられていた記憶がある。ちなみに隠れカトリックであったシェイクスピアは、プロト・プロテスタントとでもいうべき、プロテスタントの英雄オールドキャッスルを道化的人物にしたたため、オールドキャッスルの子孫から抗議され、名前をフォルスタッフに変えたとされている。
あとミシャの大作以外にもミシャの名前をアールヌーヴォーの世界とともに知らしめたポスターがあって、とりわけサラ・ベルナールのポスターが興味ぶかかった。有名なポスターであるが、ハムレット、ジヒスムンド、ロレンザッチョ、メデを演じたベルナールのポスターをみることができた。メデ(メディア)以外は、男性人物であり、ベルナールは男性役をよく演じた。ちなみに、私はサラ・ベルナールの伝記(英語版)をもっているが、そこにある本人の写真とミシャのポスターが描くところのベルナールの顔はあまり似ていないようにも思えるのだが、まあ、舞台衣装でのベルナールは、ポスターみたいな感じだったのだろう。それにしてもロレンザッチョの名前は懐かしい。戯曲を読み返してみようかとも思う。
追記
ちなみに私はミュッセの『ロレンザッチョ』を昔、英訳で読んだのだが、1993年渡辺守章訳で翻訳がでている(それは上演台本でもあった)。そしてそれが2016年に光文社文庫に入ったことをすっかり忘れていた。渡辺訳で読み返してみようと思う。