Skyfall(2012)
「スカイフォール」とはなにかについて
スカイフォールはメトニミーでもあり、またメタファーでもあるのだろう。メトニミーとしては、これは明確である。ボンドが生まれたスコットランドの生家の地所の名前。「スカイフォール」というような命名法が一般的なものか特別なものか私には判断できないが、とにかく場所の名前。映画のなかでは、ここが決戦の場となる。その意味で、作品のなかの一部がタイトルとして選ばれている、まさにメトニミーといえる(シネクドキかもしれない)。
しかし、これもメトニミーのひとつ「ホワイトハウス」が、英国の「ナンバー10(テン)」と違って、象徴的な意味を持っていて(「白い、純白、純粋」などを意味)、メタファーでもあるように、「スカイフォール」も、メトニミーでもありメタファーであって、メタファーとしては、いろいろと意味があろう。また、いまからみると、この続篇『スペクター』からみても、この「スカイフォール」には、いろいろな意味が込められていることがわかる。
「ダークナイト」ライジング
『スカイフォール』はバットマンを意識したということで、そう考えれば、いろいろな違和感が解消する。たとえばハビエル・バルデム扮する悪役は、これまでのボンド映画の悪玉とは異なり、青酸カリのカプセルを飲んだのだが、死にきれず、内臓が焼きただれ、障害の残る身体をかかえこむことになったという設定だが、この映画のつっこみどころを書いている「頭のいいバカ」が結構いて、おかしいのだが、しかし、この青酸カリのカプセルの設定についてつっこまないのは、おかしいぞ。
青酸カリのカプセルを飲んだら死ぬ。助からないし、また内臓が焼けたり、歯が抜けることもない。ただ死ぬ。実は、ハビエル・バルデムは『海を飛ぶ夢』(2004)のなかでは、青酸カリで自死するのだが、内臓がとけたりはしない。ただ劇薬によって身体的な変化がもたらされたというのは、まさにバットマンの悪役たちそのものではないか。ハビエル・バルデムは、ほんとうにあと一歩で、バットマン/ダークナイトにでてきそうなフリーキーな悪党になる、というかバットマンの悪役そのものである。
逆に、これまでのボンド物の悪役たちは、それこそ『キングズマン』にでてくるサミュエル・ジャクソン扮するIT企業の富豪のような、世界征服をたくらむ狂人であって、本家のボンド・シリーズが、『キングブマン』にお株を奪われるとうかっこうになった。
しかもハビエル・バルデム扮する元MI6のエージェントは、Mに裏切られ復讐を企むのだが、同時に、Mへのマザコン的な愛憎入り混じる感情を抱いて、最終的な目標が、全世界の制服ではなくて、むしろ、死であって、そこにタナトス的欲望が全開となる点、彼は精神的にもフリークスある。この点でも、『ダークナイト』のヴィランによく似ている。
女王陛下のエージェント/女王陛下の劇作家
今回面白かったのは、ボンドの出身地がスコットランドで、その家系が国境忌避者つまりカトリックであったという可能性が垣間見えていることである。
映画では、まずボンドを、バットマン/ダークナイトに作り替えている。つまり富豪の息子で、幼くして両親を殺される。やがて悪を懲らしめるエージェントとなるが、実家は、『バットマン/ダークナイト』の執事アルフレッド・ペニーワースのような人物が守っている。この番人が、家を守って活躍する(今気づいたのだが、アフレッドの苗字はペニーワース、名前からしてマネーペニーの親戚だ)。この人物は『バットマン』のアルフレッドのような執事ではないかもしれないが(ちなみにアルフレッド・フィニー扮するこの人物、アルフレッドという名前が共通している)、このキンケイドは、実家の猟場の番人として、家を出て悪人を懲らしめている坊ちゃんに協力する。
ちなみにキンケイド/アルフレッドが最後の銃撃戦で発砲する銃は、象撃ち銃で、あれは撃った瞬間の反動がものすごくて、腰だめでは絶対に撃てない。その点を、つっこめ、頭のいい馬鹿ども。なぜそんなことを知っているのかというと、小学生の頃、授業の一環で学校から見に行った映画、文部省推薦の英国映画『サミー、南へ行く』に、あの象撃ちの銃が登場していたからである。
そして最後の英国国旗を背にして屋上からロンドン市街を見下ろしているシーンは、星条旗を背に、市街をみおろしているバットマンと同じだということもいわれている(バットマンは夜の騎士だから、そのシーンは暗いが、007では昼間というちがいはあるにしても)。
しかし、それ以上に面白かったのは、007がレキュザントRecusantであるという可能性が示されたことである。組織の精神科医とのコンサルティングを通して、ボンドの性格が、権威や組織に対する反抗的姿勢を崩すことができない性格であることが強調されるが、そうなった原因として、その出自が関係していることが、におわされるのである。ボンドの家系は、スコットランドのレキュザントRecusant(カトリック、国境忌避者)の家系である。007ジェイムズ・ボンドは、女王陛下のカトリックなのであって、この点で興味深いのは、ウィリアム・シェイクスピアもまた同じく女王陛下のカトリックであったことだ。ともに英国を代表する人物でありながら、カトリックであるという皮肉は、実に面白い。
2015年12月05日
『007 スカイフォール』
posted by ohashi at 21:56| 映画
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