昨日(2013年7月24日)に『モンスターズ・ユニバーシティ』について触れた際、前作の『モンスターズ・インク』はゲイ映画であると語った。なぜ、ゲイ映画なのか。私が、批評理論の授業で配っているプリントの一部を、ここに転載して、その答えを確認しておきたい。
ディズニー&ピクサーのCGアニメ映画『モンスターズ・インク』(2001,日本公開2002年それにしても10年以上も前の映画なのだと、今回あらためて悟った)は、子どもの恐怖の叫び声をエネルギーとして蒐集するモンスターズ提供有限会社に働くサリーとマイクのコンビが、ふとしたきっかけで、モンスターの世界に紛れ込んだ人間の女の子に翻弄されつつ愛情を抱き、やがて彼女を守るうちに、会社内での陰謀をつきとめ、さらに会社を、子どもをおもしろがらせ笑い声をエネルギーとする新会社へと生まれ変わらせるという、心温まるファンタジーである。ここには大人(と想定される)モンスターと、人間の子どもとの心の交流が描かれる。これがなぜゲイ映画なのか。
この映画は、ゲイ映画として見なければいけないということではない。ゲイ映画としてみることもできる要素があるということである。言い方を変えれば、ふつうのファンタジー映画としてパッシングpassingしているゲイ映画であるともいえるのだ。
事実、ネット上ではこの映画をゲイ映画とみる意見が流れていた。たとえば声優たち、サリー役のジョン・グッドマン、マイク役のビリー・クリスタルは、ともに有名なアメリカの俳優(喜劇が多い)だが、彼らはともにゲイの役を演じたことがある。受付嬢役でマイクの恋人のジェニファー・ティリーは、映画『バウンド』(ウォーシャウスキー兄弟監督1994)でレズビアン女性を演じたことで名高い。またモンスターたちが出入りするのはクローゼットのドアである。これはクローゼットをゲイ社会の隠語とするゲイ文化とも関係する。
もちろんこうした情報は映画そのものを見るときには関係がないかもしれない。しかし映画の内容においてもゲイ的要素はある。マイクとサリーは同棲している。二人が長いあいだつきあっている(A Long Companion)ことがわかる。また巨人の怪物サリヴァンが通常はサリーと女性名で呼ばれている。このサリーは会社内ではNo1モンスターである(ホストクラブのホストのように)。そしてマイクは、このサリーのアシスタントであり、まさに文字通り女房役であり、サリーを羨望と愛情と畏敬の眼差しで見つめている。とくにサリーたちモンスターたちの登場を迎えるアシスタントたちの潤んだ目が印象的だ。彼ら男は、男に恋をしている(『モンスターズ・ユニバーシティ』では、マイクがサリーをそのような目でみることはないが、プロの「怖がらせ屋scarer」は、まさにスターであり、子供たちや学生たちは、彼らのことを畏敬と羨望の眼差しで見つめている)。
そして映画の設定は、クローゼットのドアを隔てて、人間の世界とモンスターの世界を区別している。このふたつの世界の設定は、一般人の世界とゲイの世界とが、互いに異次元の世界のように存在する現在の世界あるいは、ゲイの世界からみた世界のありようそのものである。しかもクローゼットのドアから出てくる(coming out of the closet)のがモンスターというのは、これは世間で考えられている同性愛者のイメージそのものである(Monsters in the Closetというゲイ映画の研究書もある)。ゲイの世界というのは、一見ヘテロな世界の裏側にできた、あるいはヘテロな世界をそっくり真似てできた世界であって、それはまさにヘテロな世界に対する異次元であり、逆にヘテロな世界の人間は、この異次元からの侵入者を恐れるという面がある。これがゲイ・ヘテロに分断された世界の状況である。
となるとこの映画はゲイの世界のメタファーであると同時にその夢でもある。つまりクローゼットから出てくる怪物が、恐怖の怪物として恐れられるのではなく、楽しい仲間として受け入れられる夢のような世界。同性愛者がもはや怪物として恐れられることのない世界。
そして、この夢に対してもうひとつの夢がある。それは女の子を可愛がり守ることによって、サリーとマイクの間に子どもができたことになる。同性愛カップルにとって子どもをつくることは最初から不可能である。しかし偶然からサリーとマイクのあいだには子どもができる。それこそゲイ・カップルの見果てぬ夢が実現した希有な瞬間だったのである。
以上。2002年以降の授業で毎年のように配っているプリントの一部だが、前は、もっと長く書いていたが、参考資料の一部として、夾雑物を削って、骨と皮だけにしたために、10年前の文章に比べたら、かなり簡略化されたものになっていると自分ではわかる。それでも言わんとすることは伝わっていると思う。
2013年07月25日
なぜ『モンスターズ・インク』はゲイ映画なのか?
posted by ohashi at 00:14| 映画
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