前作以上に荒唐無稽性と県民性へのいじりがパワーアップしていて、しかも、GACKTとからむ二階堂ふみも杏も、ともに男性の役であり、前作でも千葉の海岸が舞台になるときはそうだったが、今回も、和歌山白浜、そして琵琶湖と水にまつわる物語ともなっていてクィアであることはまちがいない。クィア性がアップしたかどうかわからないが、わかりやすくなってはいる。
私は埼玉県在住だが、前作のとき、千葉県出身という人から、千葉県民としては、これまでもこれからも埼玉県民に負ける気がしないといわれたとき、それはそうでしょうと賛意を表明した記憶がある。私は埼玉県で生まれ育ったわけではないので、埼玉県がどんなにディスられても面白がることができる、つまり笑っていられる。
ちなみに奈良県出身の人とリモートで会う機会があったのだが、雑談で、今回の映画の内容を紹介すると、奈良が、和歌山や滋賀と共闘させられるのは不愉快みたいで、和歌山・滋賀といった最底辺と奈良をいっしょにするのはおかしいと憤慨されていた。「京阪奈」という地域や呼称があるくらいで、また歴史の古さで京都をマウントできるのは奈良だけだと熱く語っていた。私は関西圏の詳しい事情は全く知らないので、文句は、どうか映画のほうに言ってほしいと伝えておいたのだが。
映画.COMでの映画紹介の一部を引用する
東京都民から迫害を受けていた埼玉県人は、麻実麗率いる埼玉解放戦線の活躍によって自由と平和を手に入れた。麗は「日本埼玉化計画」を推し進め、埼玉県人の心をひとつにするため、越谷に海を作ることを計画。そのために必要な白浜の美しい砂を求めて和歌山へと向かう。そこで麗は、関西にもひどい地域格差や通行手形制度が存在しているのを目の当たりにする。そして大阪のめぐらせた陰謀が、やがて日本全土を巻き込む東西対決へと発展していく。
この大阪の――具体的には片岡愛之助演ずるところの大阪府知事の――めぐらせた陰謀とは、大阪の粉ものを日本全土にばらまき、日本人を粉もの中毒にする(その症状は、粉もの料理を食べると、大阪弁しかしゃべれなくなり、最終的に廃人になる)ことで、日本全土を征服するもの。
これってメディではとりあげていないが、またとりあげるとやばすぎるのかもしれないが、この映画における狂信的で悪辣な大阪府知事の日本征服計画は、日本維新の会の躍進と重ね合わせてみることができる。
大阪都構想を打ち上げたローカルな政党がいまや国政に参加する全国区の政党となった。
しかも日本維新の会は、何度も失策・失政にまみれていても、支持率を失わないため、まるで新興宗教のようだと言われている(特定の宗教団からの支援を受けているというようなことではなくて、あくまでもイメージ上のこと)。
はたせるかな、この映画で大阪府知事は、なにやらいかがわしい宗教儀礼を主催し、信者たちをトランス状態に置くまでになっている。
日本維新の会について、日本人あるいは関東人が抱く負のイメージが、荒唐無稽な冗談という口実のもと(たとえば日本全土に白い粉をばらまく秘密兵器が通天閣ミサイルなのである)、表面化しているように思われる。それはまた日本維新の会のバックにある、名状しがたい闇(そこにはイメージだけではない宗教団体の影もちらつく)の不気味さをも連想させる。
『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』は、日本維新の会に対する恐れとおののきを、関西人をディすりながら展開する荒唐無稽な設定のなかに、見事に(と私は思うのだが)溶かしこんだ映画作品だと私は確信している。