と同時に、リアルタイムでどのディズニーのどの長編アニメ作品から感銘をうけたかは、人それそれぞれだろう。とりわけどの世代に属しているかにもよっても、印象に残っている作品は異なる。
『アナと雪の女王』が一番印象に残っている人もいるだろう。いや、私は『ムーラン』だ、私は『アラジン』だという人もいよう。世界初の長編カラー・アニメ『白雪姫』(1937、日本公開1950)をリアルタイムで観た人もいるだろう。
私の場合、印象に残っているのは『わんわん物語』(1955/日本公開56)、『眠れる森の美女』(1959/60)、『101匹わんちゃん大行進』(1961/62)の三作である。アーサー王伝説を扱った『王様の剣』(1963/64)はテレビで予告編を見た記憶があるが、映画館ではみていない。
正確に言うと『わんわん物語』も映画館ではみていない。ただ『わんわん物語』の絵本(アニメ映画の画面を印刷したカラーの絵本)が、どういうわけか我が家にあって、子供の頃の私は、それを毎日とはいわないが、暇があれば見ていた。
『わんわん物語』の本編は、のちにテレビかなにかで見たのだが――またその時は原題がLady and the Tramp(お姫様と浮浪者・野良猫)というのにも驚いたが――、暇さえあれば観ていた絵本のなかのある場面がいつも気になっていた。
二匹の猫が一本のスパゲティを両端から食べ進んで最後にキスをするという、このアニメで最も有名になった場面なのだが、子供の頃の私は、一本のスパゲティの両端を二匹の犬がくわえている場面をみて、いったい何を食べているのかと、不思議に思ったのである。
当時、日本にもスパゲティは入ってきていたはずだが、庶民や貧乏人の食卓に出されることもなく、また街のほとんどのレストランにおいてメニューに入っていなかった。だから、麺類のようだがうどんでも中華麺でもないこれはなんだとその絵本を見るたびに不思議に思っていた。
結局我が家でも母親がスパゲティ料理を作るようになって疑問は氷解した。今にして思えば、それはスパゲティ・ミートボールであった。
ちなみにWikipediaの「スパゲッティ・ウィズ・ミートボール」の項目には、映像作品への登場というセクションで、
『わんわん物語』
主人公の犬のカップルがイタリアン・レストランにてスパゲッティ・ウィズ・ミートボールを食べている背後で、シェフがバンドネオンを弾きながら挿入歌「ベラ・ノッテ(Bella Notte)」を歌うシーンが存在する。
という記述がある。また
『ルパン三世 カリオストロの城』
ルパン三世と次元大介が、レストランにて山盛りのスパゲッティ・ウィズ・ミートボールを奪い合うように食べるシーンが序盤に存在する。
という記述もあるが、『ルパン三世』のこの場面は、『わんわん物語』に影響を受けたものだろうと私は考えている。
『眠れる森の美女』は子供の頃の私がはじめて映画館でみたディズニーの長編アニメ。もちろんミッキーマウスやドナルドダックなどはテレビでも見ていたのだが、長編アニメはとにかく初めてで、唖然としてスクリーンに見入っていたことを覚えている。実写版はつくられていないが、21世紀になって『マレフィセント』(2014,2019)が創られて、昔を思い出した。
また原作はペロー童話で、バレー組曲もあるこの『眠れる森の美女』だが、そもそもの原作が『ペンタローネ(五日物語)』であることに気付いたのは、けっこう最近のこと、マッテオ・ガローネ監督『五日物語――3つの王国と3人の女』(2015)を映画館でみたからである。『眠れる森の美女』の原型『太陽と月とターリア』は5日めの5番目の物語。ガローネ監督の『五日物語』には、この「太陽と月とターリア」は入っていないが、とにかく映画は不気味でそれでいて美しかった。
ガローネ監督の映画としては『ドッグマン』(Dogman、2018)が印象的で、登場する巨大な犬(本物)がいまもなお脳裏から離れないが、私が子供の頃のディズニーアニメは、『わんわん物語』ではじまり『101匹わんちゃん』で終わりをむかえていた。
犬を飼ったことはないのだが、ディズニー長編アニメでは犬に縁があった。『101匹わんちゃん』は、20世紀にすでに実写版がつくられ、21世紀になってからは悪役クルエラを主人公とした実写版(『クルエラ』)もつくられたが、101匹の犬を登場させる実写版はたいへんだったと思うものの、それ以上にたいへんなのはアニメ版で、全編にわたって登場する無数のダルメシアンに黒い斑を書き入れるという気の遠くなるような作業を余儀なくされたのである。
むしろその異次元のたいへんさを強調するためにダルメシアンを登場させる長編アニメをつくったのかもしれないが。
『わんわん物語』『眠れる森の美女』『101匹わんちゃん大行進』――この三作品で、子供の頃の私のディズニーアニメとの付き合いは終わる。その前後の作品は、ほぼすべてのちにテレビとかビデオ、DVDそして21世紀には映画館でもみることになったが、子供の頃はその三作しか見ていなかった。母親が病気になり映画館に連れて行ってくれる大人がいなくなった。また私自身、中学生、高校生となるにしたがってディズニー・アニメどころではなくなったのだが。
ともあれディズニーの長編アニメ映画のそのほとんどを見ている人は多いと思うのだが、そのなかに、子供時代の思い出となっている作品がいくつかあるはずである。まあ、それで歳がわかるというメリットあるいはデメリットもあるのだが。
【付記 『わんわん物語』は実写版が創られていたことがわかった(2019)。ディズニーのリメイク実写版としては初めて劇場公開されず、ストリーミングサービスのみでの公開。残念ながら私は観ていない。】