2023年11月07日

じゃこ天騒動

じゃこ天騒動はおさまったかにみえるが、しかし、納得のゆかないことがある。

実際にはじゃこ天は出されていなかったという記事があった。

秋田県知事「じゃこ天」騒動 実はメニューになかった 最高級伊予牛ステーキは提供【愛媛】10/30(月) 15:18配信 テレビ愛媛

「いいステーキだと思ったらじゃこ天。貧乏くさい」。佐竹秋田県知事が全国知事会で四国を訪れた際、実はメニューにじゃこ天はなく、最高ランクの伊予牛のステーキが出されていたことが30日までに分かりました。

この騒動は、佐竹秋田県知事が地元の政財界のトップが集まった23日の会合で、全国知事会議で四国を訪れた際の体験を「メインディッシュがいいステーキだと思ったら『じゃこ天』です。貧乏くさい」と発言。波紋が広がり25日に会見を開き謝罪していました。

愛媛県によりますと、県内では10年前に全国知事会議が開かれ、この時の献立には伊予牛「絹の味」の最高級にあたる黒ラベルのステーキが出された一方、じゃこ天はなかったということです。

ただ当日にメニューが変更されたり、佐竹秋田県知事が食べていない可能性があるとしています。

佐竹秋田県知事は謝罪した会見で、「会場を盛り上げようという思いがあった。悪い例えだった」と釈明しています【以下略】

この記事については、現時点では、後追い記事が出ていないのだが、またじゃこ天騒動も、じゃこ天の売り上げが伸びたらしく、よい結果をもたらしたので、これ以上追及しないというメディアの方針なのかもしれないが、しかし秋田県知事の無責任な発言は徹底して批判されねばならないことと思う。

考えてみてもいい、全国知事会議後の食事会に「じゃこ天」をメインディシュに出すわけがない。じゃこ天が貧乏くさいからではない。そもそもじゃこ天は、総菜か酒の肴であって、メインディシュのジャンルには入らない。コースのなかで、ご当地名物を一品添えることはあるだろうが、あるいはそれを材料のひとつとした料理を出すこともあるだろうが、メインディシュとして出すのはおかしい。だから夕食のメインディシュにはじゃこ天は出ていなかったと常識では考えるだろう。なぜそこをつっこまなかったのか記者たちのほうがおかしい。

いやそもそも、出てもいないじゃこ天を話題にした秋田県知事のほうがおかしいというべきか。「会場を盛り上げようという思いがあった」と秋田県知事は述べている。たぶんそうなのだろう。記者会見の場で、おもしろおかしい話をして座を盛り上げようとした。四国の愛媛県人は、メインディシュにじゃこ天を食べているらしい。びっくりした。貧乏くさい。という話は、真偽のほどは別として、面白い。しかし芸人やタレントが、ありもしない事実を面白おかしく盛って話すのは許されるかもしれないが、秋田県知事という公人であり政治家が、そのようなほら話を記者会見の場でするというのは許されないことと思う。

問題は、じゃこ天を貧乏くさいと述べたことではない(もちろんこれも問題だが)。それ以上に、ありもしないじゃこ天のディナーをでっち上げたことだ。本人は軽い冗談のつもりで、記者がつっこみを入れるのを待っていたかかもしれないが、それもなく、じゃこ天ディナーがさも事実であるかのように伝えられてしまったのだろう。繰り返すが、公人の発言としては、「冗談だ」というかたちでよいので、虚構であることをすぐに示さないと、虚偽が真実としてまかりとおり、そこから偏見や差別が生まれかねない。秋田県知事の発言は、受け狙いとしても、罪深いものといわざるをえない。

昔、タモリが、名古屋人はエビフライを偏愛しているという、ありもしない事実をでっち上げて流通させたことがある。名古屋の食堂の料理見本でエビフライをよく見かけたということらしいのだが、名古屋で生まれそこで暮らしていた私としては、名古屋人がエビフライをとくに好むということは、昔も今もないと断言できる。ましてやその後「エビフリャ~」と名古屋弁式の発音で語られるようになったエビフライだが、名古屋人は「エビフライ」を「エビフライ」と発音するだけで「エビフリャ~」などと発音はしない。料理名を発音するのに、アクセントは標準語と違うかもしれないが、なまって発音することはない。どこの県でも地方でも。

だからくだらない虚構を広めたタモリを私は絶対に許さないが、しかし、芸人やタレントが地方人や地方文化をいじることは実際には許されている。またいじられた側も、それを面白がり嬉しがって受け入れることも多い【『翔んで埼玉』のことを思い出してもいい】。しかし公人である県知事が受け狙いとはいえ事実をでっちあげることは、ましてや受け狙いでしかない場合、許されるべきではないだろう。たとえそれが良い結果を生んだとしても。
posted by ohashi at 09:13| コメント | 更新情報をチェックする

バービーと原水爆

つぎのようなネット記事があった。

「バーベンハイマー」まさかの映画化
シネマトゥデイ によるストーリー 2023年11月06日

インターネット・ミームとなった「バーベンハイマー」が、人間を破滅させるために原子爆弾を作るファッションドールの物語として、パロディ映画化されることになった。

バーベンハイマーは、一面ピンクのグレタ・ガーウィグ監督作『バービー』と陰鬱なクリストファー・ノーラン監督作『オッペンハイマー(原題) / Oppenheimer』という2作のタイトルを掛け合わせた言葉。正反対の作風の話題作2作が同日公開されるということで生まれた「バーベンハイマー」は海外で社会現象となり、それぞれ世界興行収入14億4,152万8,220ドル(約2,162億円)、9億4,748万1,000ドル(1,421億円)を上げる大ヒットを記録した。(数字は Box Office Mojo調べ、1ドル150円計算)

その「バーベンハイマー」というアイデアをそのまま映画にしてしまうことにしたのが、数々のB級映画を世に送り出してきたチャールズ・バンドだ。【中略】終わりのない夏とビーチパーティーが続くドールトピアを舞台にした『バーベンハイマー(原題)』の主人公は、トゥインク・ドールマンを彼氏に持つ聡明な科学者人形バンビ・J・バーベンハイマー博士。バーベンハイマー博士は人形たちが人間の子供たちから受けている残忍な扱いに激怒し、人間世界へ向かうことに。しかし、そこで人間の最悪な面を見たバーベンハイマー博士は、人間たちを破滅させるため巨大な核爆弾製造を決断する……というストーリーだ。【以下略】


「バーベンハイマー)」は、原爆の炎(映画『オッペンハイマー』由来)とバービー(映画『バービー』)とのコラージュ画像。この“おもしろ画像”が投稿されたとき、そうした画像に映画『バービー』の公式アカウントが肯定的な反応を送ったことから、日本側から猛烈な抗議の声があがった。

だが『バービー』の公式アカウントの無神経な反応がなければ、バービー人形と原爆とのコラージュは、ある歴史的真実をあぶりだしていたはずである。バービー人形が誕生したのは1959年。アメリカのミッド・センチュリー・モダンのまっただなかの1959年はまた、冷戦のまっただなか、軍拡競争のまっただなかでもあった。

この時期、米ソの軍拡競争のなかで、水爆実験が世界中でおこなわれていた(ちなみに水爆は、その第一段階において原爆を起爆する、つまり原爆と水爆は連動していた)。バービーの歴史的バックグラウンドは水爆実験である。そしてそれは1963年の部分的核実験禁止条約まで続いた(完全に実験がやめになったわけではなかったものの)。

バービーと原水爆は、おもしろ画像のコラージュを待つまでもなく、密接な関係があった。バービー人形の人工的な笑顔の背後では、水爆実験の爆風が地球の大気を確実に汚染していた。オッペンハイマーとの結びつきで広島・長崎に投下された原爆へとむすびつけられたバービー人形だが、ほんとうは、原水爆実験時代の、まさに顔だったのだ。このことは忘れてはならないだろう。
posted by ohashi at 00:53| コメント | 更新情報をチェックする