2023年11月03日

講演会

『孤独のグルメ シーズン10』の第6話「岐阜県下呂市の」とんちゃんとけいちゃん」(2022年11月11日放送)では、おなじみの井の頭五郎/松重豊は、中学の同級生で、今は校長をしている人物(松下由樹)から講演を依頼され、岐阜県下呂市に赴く。無事講演を終えたあと、腹が減っていることに気付いた井の頭/松重がいつものように店探しをはじめるという話【CSでも2023年11月10日に再放送】。

かつて同級生だった校長から、井の頭の仕事について中学生の前で話してくれという依頼のようで、原稿もなく、メモもなく、生徒の前で1時間くらい話をしたという設定になっているのだが、気楽なものだと、うらやましくなる。

ただそれにしても、教室での授業の際のゲストとか10人以下の少人数の会合でのスピーチというのならまだしも、全校生徒を集めての講演が、自分の仕事についての漫談でいいというのは、いや、とにかく演壇でただ話せばいいというのは、いったいいつの時代の話なのかとあ然としなわけでもない。

私も東洋大学から講演を頼まれて10月27日に講演をした。1時間ほどの講演(そのあと30分ほどの質疑応答)だが、元大学の教員が、大学の教員と学生あわせて300人くらいの聴衆を前に講演するとなると、ただ、話していればそれでよいとはいかなくなる。原稿を用意する? もちろん、それも必要だが、会場には視聴覚機器も完備されているので、それらをフル活用することになる講演資料を用意せねばならない。具体的にいえば、パワーポイントを使ったスライドショーができるような資料を前もって用意するということである。要は、講演といっても、ただ話をするのではなく、いわゆるプレゼンをすることになる。したがってプレゼン用の資料をこちらで作成するということになる。

こうしたプレゼンにおいては、画面に映し出されるのと同じ内容を印刷した紙の資料も用意するのが慣例なのだが、私の場合、画面数が40と多いので、紙もそのぶん多くなる。そのため画面とほぼ同じ内容だが、それを圧縮してA4で4枚の資料を作成した。それを参加者全員に配ってもらうことにした。もちろん、それでも大量の印刷物となる。

ちなみに私の講演のあと、たまたま別の大学の先生で講演会の幹事兼雑用係をしたことがあるという方から話を聞く機会があったのだが、その大学では講師が用意した画面の数と同じ数の紙の印刷物を準備し、それを参加者全員に配ったので、ものすごく大変だったということだった。

パワーポイントのファイルは、コロナ渦で大学の授業がリモート中心になり始めたころ、まだ非常勤講師をしていた私は、リモート教材を毎週作成したことがあった。その時の記憶を頼りに、なんとか講演会の資料を作成できた。それに音声を入れれば、リモート授業の教材になる。

ただリモートではなくても、大学の先生方は、毎日、毎週、こうした教材の作成に明け暮れているわけで、ほんとうに頭が下がるとしか言いようがない。また多くの聴衆を集めての講演会では、視聴覚機器を活用するプレゼン形式になるのは、いまや慣例となっている。ただ、その場にいって話せばよいという昔ながらの講演がなつかしいといえばなつかしい。

なお東洋大学の講演は、「グローバルプロジェクト講演会」という連続公演のひとつで、「英米の映画における日本のイメージ」というようなタイトルで話をさせてもらった。その内容については、講演会が、東洋大学の教員・学生限定とのことだったので、ここで語ることはできない。

【付記:念を押しておくが、講演者が有名人だったら--公人として有名である場合、あるいは有名な私人である場合--どのような場合でも、本人が生きた資料そのものだから、パワーポイントを使ってのプレゼン形式の講演をする必要はない。むしろそんなことはしないほうがいい。漫談でいいので話をするだけでよい。松重豊クラスの俳優ならば、ただ登壇して漫談をするだけでも、聴衆は満足どころか大喜びであろう。しかし彼が扮する井の頭五郎の場合ならば、プレゼン形式の講演をしたほうが聴衆の満足度も大きいということである。】
posted by ohashi at 21:08| コメント | 更新情報をチェックする