ラーメン店から
ラーメン店というのは、大変厳しい業態のようで、新規開店しても長続きする店は少ないらしい。最近ではコロナ禍で客足も途絶えて閉店する店が増えたのではと思っていたが、実のところコロナ禍では補償金などがあってつぶれずにすんでいたとのこと。むしろ補助金が終わったポストコロナ渦の今になって経営不振で閉店する店が増えているということらしい。
そんな厳しい現実にさらされているラーメン店だが、いっぽうで、ラーメン店ほど注文の多い料理店はない。あるいは入店するのが、ためらわれる店のトップはラーメン店ではないだろうか。変わらぬラーメン人気にもかかわらず。
ネット上に「ラーメン屋が偉そうでムカつく!最悪な態度や厳しいルール事例まとめ」という記事があった。2020年のちょっと古い記事である。そのなかで列挙された最悪の態度とか厳しいルールとは、次のようなものである。
最悪の態度:
店主に怒鳴られた
「ラーメン」と注文したら「中華そばしかない」と言われた
美味しいと感想を述べただけで「黙って食べな」と言われた
食べるのが遅かったからか「早く帰ってくれ」と言われた
全部食べきるまで帰れない
上から目線の暴言を吐いてきた
注文間違いを指摘したら逆ギレされた
厳しいルール:
通話はもちろん携帯の操作禁止、着信が鳴ってもダメ
私語厳禁
従業員への叱咤激励はやめて温かい目で見守ってほしい
赤ちゃん連れ、子供連れはお断り
好みの麺のかたさなどの要望には応じられない
大盛禁止
はじめに麺から食べたら退場
店主のルールに合わない客は客じゃない
たしかにラーメン店は注文が多くてうんざりすることがある。ここでいう注文が多いとは、客からの注文が多いということではなく、店側から客に対する注文が多いということである。
もちろん客側も、周囲の客に迷惑をかけないというマナーを守るということは大前提であるが、マナーを守ったうえでなら、私語は問題ないし、麺とスープどちらから先に口に入れるべきかといったことなど客の自由でいいではないか。店側から客側に対し食べ方まで規制するというのは、正直やりすぎではないか。実際、そんな店が多いのは確かで、せっかく美味しいラーメンを供されても、店側の姿勢によって客がうんざりして来なくなるということはあるだろう。
周囲に迷惑とならない限り、私語を発して盛り上がったり、座席くらい蹴とばしてもいいじゃないか……。
とここで思い出した――ネットにおける以下のような記事(オリジナルはWeb『女性自身』の記事らしいが)を。
「座席ぐらい蹴飛ばしてほしい」山田洋次監督 映画鑑賞マナーに持論もネット猛反発「余計なこと言わないで」「冗談じゃない」Web女性自身のニュース
Yahooニュース 9/14(木) 18:00配信
9月13日、都内で行われた映画『こんにちは、母さん』の公開中舞台あいさつに登壇した山田洋次監督(92)。【中略】トークショーでのコメント。司会者から「(観客は)映画館に1人で行っているんだけども、みんなで笑ってみんなで一緒に観ているような気がする。これ、素晴らしい映画体験だと思うんですけども」と向けられると、次のように語ったのだった。
「いま映画館に行くと、“大声で笑ったりしちゃいけない”って(スクリーン)に出てきたりしますよね。やたらに“ものを食べるな”とか、“前のシートを蹴飛ばすな”とかね。僕は本当に、あれがあまり好きじゃない。お金払って楽しみに来てるのに、『ああしちゃいけない、こうしちゃいけない』となぜ言われなきゃいけないんだっていう。
僕は大いに笑ってほしいと思う。座席ぐらい蹴飛ばしてほしいと思う。ビール飲んだり、タバコ吸ったりしたっていいじゃないかと思う。そういう風に映画を楽しんでほしい、そんな思いでこの映画を作りました。だから、みなさんがワイワイ笑って映画を観てくださるのが、本当に僕にとっては嬉しいことです」
山田監督が熱く語った持論に、ネット上では《分かる》《監督に賛成!!》と理解を示す声が。
だがいっぽうで、大手シネコンをはじめとした多くの映画館では「上映中のおしゃべり」「喫煙」「前の座席を蹴る」「他店からの飲食物の持ち込み」といった行為はマナー違反として控えるよう観客に呼びかけている。最近ではスマホが普及したことによって、スマホの光や音が迷惑になることも問題視されている。
また、映画鑑賞料金も年々値上げの傾向にあり、今年6月1日にはシネコン大手TOHOシネマズが全国71拠点で一般料金を1,900円から2,000円に改定。シニアやレイトショーなどの一部券種も同様に、100円の値上げがなされた。
そうした背景もあり、“鑑賞料金を支払っているのだからマナーは守るべき”と、山田監督の意見に反対する声が相次いでいる。
《勘弁してください。冗談じゃない》
《時代遅れ? いやいや、昭和だってそんなの迷惑でしかないよ》
《お金払って観るからこそ、マナーは守ってほしい!監督余計なこと言わないで》
《映画で大いに笑うのはいいですが、やはりマナーを守らないと楽しさが半減してしまいます。 無料の娯楽施設ならまだしも決して安くない料金を払って観ているので、携帯の音や光、食べる音、後ろを蹴られるのはやはり不快です。今はいちいち注意喚起しないと気付かない人がいるので、初めに言ってもらえるのは有り難いと思います》
「お金を払っている」の価値観は山田監督と観客側では、乖離があったようだ。
この発言に対し、92歳のクソ爺が何をいうかと私は憤りで震えた。まあネット状でも反対意見が相次いだことは私の怒りと同じものを感じた人たちがいてちょっと安心した。
そもそも「“大声で笑ったりしちゃいけない”って(スクリーン)に出てきたりしますよね」と山田洋次監督は語っているが、実際には、そんな注意は出てこない。映画館での上映前の注意喚起は映画館によっても多少異なるが、だいたい以下のようなものである。
スマホ・ケータイの電源を切る。おしゃべりを控える。(映画館で買ったもの以外の)食べ物の持ち込まない。撮影禁止。前の席を蹴らない。前かがみにならない。
【現在のシネコン形式の映画館は客席の勾配が急で、前の座席の人間が前かがみになっても見えにくくなることはない。実際、画面に魅入るというかたちで前かがみになって観る人間はけっこういる。もちろん客席の傾斜が急ではない映画館では、これは絶対にやってはいけないことである。とりわけ劇場では、前かがみになるなと開演前にうるさく注意される。ちなみにBunkamuraル・シネマ渋谷宮下では前の席がはなれすぎていて、蹴ろうとしても蹴れません。】
だから大声で笑うなと映画館で注意喚起などしていない。ただ、山田洋次監督が訴えたのは、自分の映画を楽しくみてくれればいいので、映画会社とか映画館側が、映画の見方をうるさく言うなということなのだろう。『男はつらいよ』シリーズも、本来なら人情喜劇の娯楽作品であるのに、50作の映画シリーズとなって国民的文化遺産へと祭り上げられると、作品を学術的・分析的に考察し、そのシリーズのなかに人生に対する深い教訓なり省察を見出そうとするような鑑賞態度が生まれてくる。そうなると娯楽作品本来の楽しさや面白さが失われてしまうことを危惧して、あるいは憤慨して、観客が煙草を吸ってもいいのではないか、前の席を蹴ったってかまわないのではないかという発言が生まれたのだろう。比喩としてなら、強烈な比喩だが(気楽で自由な鑑賞態度の比喩として迷惑行為が挙げられているので)、理解できないわけではない。だが、比喩ではなく、文字通りのことを推奨しているのなら、つまり傍若無人な迷惑人間たれといっているのなら、これはとんでもない暴言である。
お金を払って観ているのだから、周囲に迷惑をかけてもいいというのは、どういう理屈なのだろうか。同じお金を払っていて、片方は好き勝手に私の座席の背もたれの部分を蹴っている。私は同じ金を払っていながら、背もたれを蹴られ、映画に集中できず、不愉快な思いをし我慢しなければいけない。これはまったくもって不公平である。くりかえすが、どういう理屈なのだろうか。
おそらく映画館で煙草を吸うことも、前の席を蹴ることも、老人だから許されるという理屈なのだろう。これが92歳の老人の論理なのである。私にはその年齢にまで達していないので、なんとも言えないのだが、どうやら、老人とりわけ男性の高齢者のなかには、自分ならなにをしても許されると考えている不良老人が少なからずいるというか、みんな不良老人になってしまうように思われるのだ。
えない。
ある日の映画館で。男性の高齢者が一人、クッションをもって座席に座ろうとしていた。映画館に備え付けのクッションである。ということは、それって小さな子供が、座席の上に置いて、その上に座ることで、前がよく見えるようになるためのもので、大人用ではない。しかもそのクソ爺が私を追い抜いていったときにわかったのだが、クソ爺、私よりも背が高い。かなりの高身長である。それがクッションを置いてそのうえで座るのだから、座席の背もたれからは頭部だけでなく両肩が見えるくらいになっている。【腰とか痔の病気でクッションが必要だとしたらやむをえないという話になるが、体に不調を抱えているというふうには全く見えないのだが】
その映画館はシネコン形式の新しい映画館で、客席の段差は大きいから自分より前列の人の頭でスクリーンがさえぎられるということはない。しかし、高身長の男性が姿勢を正して座っていると、さすがにその後ろの席に座っている者にとっては、あろうことか、前が見えづらくなる。そのバカでかい男性のすぐ後ろの席に座っていた若い女性は、自分の両隣が空席だったので、右側の席に移動していた。
この迷惑老人、映画の途中で立ち上がって、外に出て行った。もう帰ってくるなと私は心のなかでせいせいしていたのだが、老人は、もどってきた。どうやらトイレに行ったようだ。ふたたび自分の席に着いたそのクソ爺は、携帯をちらちら見始めた。その都度、携帯の光が放射状に周囲に広がって気が散ってしかたがない。どうやら時計代わりに携帯で時間を確認しているらしい。
そのクソ爺は、二人連れで来ている。女性が隣に座っている。こういうカップルで来ている観客ほど態度や行儀が悪い人間はいない。そして必ずどちらかが付きあいで映画館に来ている。つまり映画など観たくはないか、たいていの映画がつまらないかのどちらかである。そんなやつ映画館に来るなと言ってやりたいが、その老人がまさにそれであった。そしてその後もクソ爺は、携帯で時間を確認しているようで、迷惑このうえもない。そして映画が終わってエンドクレジットが出ると、そのスクリーンのある部屋のなかで、誰よりも早く、連れの女性と、暗い中、外へと出て行った。クッションをもたずに、座席に置いたままで。
歳をとると、周囲のことなど気にならなくる。マナーを守ろうなどという気持ちなどなくなっている。自由に生きることが、周囲に迷惑をかけ、周囲からの憎悪の念を一身に浴びていることなど思いもよらないのである。そんなクソ爺に、山田洋次監督、あなたがなってしまっているのは、なんとも残念なことである。
posted by ohashi at 09:24|
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