3月27日にMCの加藤浩次が謝罪。ペンギン池に落下 「春日君に対してもフリという形で追い込んでしまった」と述べた。
どちらの放送も見ていないので、あくまでも報道記事を読んでの感想でしかないが、27日の番組側の謝罪(MCの加藤浩次の謝罪も含む)は、真相を丁寧につたえ、責任を明らかにした真摯なもので、謝罪としては、りっぱなものだったように思う。
ネットでは、謝罪するMCの加藤の仏頂面が真率さを疑わせるというような記事もあったが、おそらくそれは悪意のある記事あるいは事実をねじ曲げるような記事で無視してもいいと思うのだが、仮にそれが本当だとしたら、それは番組でシナリオどうりのことを命じられたままにしただけで、自分が責め負うのはおかしいという気持ちの表れだったということだろう。ただ字面で見る限りMC加藤の謝罪は、責任を転嫁せず、批判を真摯に受け止めていて、そこに批判すべきものはないように思う。
なお春日俊彰の謝罪はない。また先輩芸人からの要請に従っただけという同情論から、さらには芸人が打ち合わせ通りに暴れることへの批判に対する批判などが芸人側からあった。
最近、監訳した『アニマル・スタディーズ――29の基本概念』(平凡社、2023)が出版された私としては、この問題について、3点だけコメントしておきたい。
1今回の件は、動物問題とは関係なくあってはならないことである。
2命じられたまましたからといって許されるものではない。
3反撃する可能性もある。
1
いくらお笑いととるためとはいえ、動物がいる池に飛び込むというのは、絶対にやってはならないことである。これは良識いや常識からいっても当然のことである。
また、ことの是非を動物問題にしないで欲しい。『アニマル・スタディーズ――29の基本概念』の監訳者である私からいうのも変かもしれないが、これは動物問題ではない。多くの動物問題がそうなのだが、人間の良識というか常識で解決できる問題を、動物問題の専門家にしか理解できない、素人は口出しできないといって放置する姿勢こそが、動物問題を引き起こし、問題を放置することになる。専門家しかわからない、あるいは専門家なら解決できるという姿勢こそが、問題解決を先送りする口実となっていることは声を大にして何度も語っておきたいことである。
今回の問題も、動物の専門家でなくても、理解できることである。たとえペンギンが、たまたまいなかった池でも、そこに飛び込むのは、管理された池の環境を破壊することになりかねない。また、これは人の財産を無断で傷つけ、ことによると破壊するという犯罪行為になる。またその不潔さ、その破壊性は、回転寿司の商品を汚したりする行為の不潔さや破壊性となんらかわりはない。お笑い芸人が、いくら笑いを取るためとはいえ、回転寿司に置かれている醤油入れをなめたりはしないだろう。もし番組内で、池に落ちることをまえもって打ち合わせしていたとしたら、ネット上で、回転寿司をはじめとして飲食店で不潔ないたずらをする愚か者と全く同じ心性をしているとしかいえないし、それは観ていて面白いことでも何でもない。
2
先輩芸人にふられたから断り切れなかったという同情論ほど愚かしいものはない。
だったら先輩芸人から人を殺せといわれたら、人を殺すのかということになる。またそのとき言われたとおり人を殺したとしたら、先輩にいわれたからではなく、自分でも人を殺すことに正当性認め、また殺される人間が殺されるに値すると評価したからだろう。人に言われたからといって違法行為をする場合、人のせいにするのはまちがっている。違法行為の責任は自分でとるべきである。その意味でも春日は一刻も早く謝罪したほうがいい。
たとえば、芸人がビルの屋上の端っこを歩き、先輩芸人から足をすべらせるなとフラれた場合、どうするか。配送ですかと言って、ビルから落下して、アスファルトの歩道に自分の脳漿をぶちまけるのか。先輩芸人が責任を問われるのか。
たとえ先輩芸人に追いつめられたからといって、そのとき、いや、いまみると人が歩道を歩いているから飛び込むのは危険だし、ていうか、飛び降りたら死んでしまうでしょうと、乗り突っ込みで逃れる手もある。もちろん、たいして面白くもない乗り突っ込みだったと先輩芸人から叱られるかもしれないのだが。とにかくどんな無茶ぶりでも、それを逃れて笑いをとる方法というのはある。
同じように、なす動物公園のペンギン池でも、足を滑らせるなというフリがあっても、いやいや、いまはだめでしょう、ペンギンたちが池にいますからといって、断ることもできる。もちろん、ペンギン池に飛び込むか飛び込まないかをネタすること自体、不謹慎だとあとで非難されるだろうが、それでも飛び込まかったことで、救われるものは、ペンギンたちだけではないはずだ。
いや、春日にそんな器用なまねはできない。いわれたことをするだけの不器用な芸人だからと同情する者もいるだろう。しかし、そういうことに「不器用」という考え方を使ってほしくない。不器用だったら、いわれたとおりのことをしない。不器用だから違法行為をしないのである。不器用だから反省し謝ってしまうのである。もし春日がほんとうに不器用だったとしたら、いくら人を殺せといわれても、人は殺さなかっただろう。言い逃れもしなかっただろうし、それ以上に、沈黙を決め込むこともしなかった。黙っていれば、いずれ忘れ去れるというのは、なんという器用な処し方なのだろうか。
3
もちろん今回の事件は、放送局側、番組制作側に、動物軽視があったことは確かだろう。番組側は、ペンギン池にペンギンがいなかったら飛び込むことにしていたともとれるのだが、おそらくペンギン池に、ペンギンがいたら飛び込まなかったことだろう。むしろペンギンがいたから飛び込んだ。ペンギンがあわてふためくところを動画に収めることができれば最高なので、ペンギンがいることところに飛び込んだにちがいない。
この点で、番組側は動物園を騙したといえるだろう。ペンギンがいるところに飛び込んだりしませんと約束していながら、ペンギンがいるところをねらって飛び込んだのだ。
動物園も、ペンギンも被害者だが、しかし、番組側も、覚悟を決めて、動物園制度そのものが、また日本動物園水族館協会(JAZA)が動物虐待とは自信をもって言えない制度であり団体であることを告発することもできる。動物園というのは、今も昔も問題のある場所でりあり制度であった。動物園側に、動物を飼育・管理することの意義がどういうものかを弁明させればいい。多くの問題があぶり出され指摘されるだろう。動物の権利と動物の解放をどう考えるのか。保護という名目での虐待でないと言い切れるのか。
今回の事件を動物問題を口実に回避するのでなく、今回の事件を口実に動物問題を考えることができればと思う。テレビ局側の動物軽視と動物虐待は断固糾弾しなければいけない。と同時にとは動物園側も純然たる被害者とはならないだろう。だが、それが動物問題について動物園側からも有益な見解が引き出せる契機となるだろう。動物園側は、アニマルウェルフェアを主張しつつも、そもそもの根幹からして動物園という制度がそれと矛盾しないかと、常に自省しているはずだからである。
これが『アニマル・スタディーズ――29の基本概念』の監訳者としての私の見解である。
参考資料
加藤浩次 「スッキリ」で謝罪 ペンギン池に落下 「春日君に対してもフリという形で追い込んでしまった」
スポーツニッポン新聞社 によるストーリー • 2023年3月27日
お笑いコンビ「極楽とんぼ」の加藤浩次(53)が27日、MCを務める日本テレビ「スッキリ」(月~金曜前8・00)に生出演。24日放送の「スッキリ」で、動物テーマパーク「那須どうぶつ王国」(栃木県)からの生中継でお笑いコンビ「オードリー」の春日俊彰(44)がペンギンのいる池に故意に落ちた問題を受け、謝罪した。
冒頭、森圭介アナウンサーが経緯説明。「まず番組冒頭でお詫びです。金曜日、那須どうぶつ王国からの中継でペンギンのいる池に出演者が入る場面がありました。動物がいない池に入る可能性については打ち合わせをしていましたが、本番では動物への安全性、衛生面への配慮が不足した危険な放送となりました。その責任は番組にあります」とし、岩田絵里奈アナウンサーが「改めて那須どうぶつ王国及び視聴者の皆様に深くお詫び申し上げます」と謝罪した。
加藤は「僕からも一言言わせていただきます。今回の件については経緯をまず説明したいと思います。番組スタッフと那須どうぶつ王国の方と事前の打ち合わせにした際、池に落ちていいんですか?と、こういうロケだからこういうことはあります、ということは説明していた。那須どうぶつ王国の方から動物に危害が加わらなければ、池に落ちても大丈夫ですよという旨のことは聞いていたと。動物が池に入っていない状態だったらいいですよ、というニュアンスですよね。そこでスタッフも那須どうぶつ王国の方たちも納得して番組にいった」と説明。
しかし、「当日の打ち合わせで僕自身、しっかりスタッフと打ち合わせすることを怠ってしまっていた。そこに対しては本当に反省しなきゃいけない部分だと思っています。スタッフとしっかり話をしていれば、僕はもうちょっとできたかなと思うんだけど、僕自身も池に落ちていいんだという部分だけで進んでしまった。実際に春日君に対してもフリという形で追い込んでしまったというか、春日君が落ちなきゃいけないという状況に追い込んでしまった部分もあると思います。そこは反省しないといけない部分だと思います。実際、そこに動物がいたということで…那須どうぶつ王国の方たちは取材に対して、快くOKしてくれた気持ちをくめず、不快な思いをさせてしまったし、関係者の方たちにも迷惑がかかっていると思います。動物に危害が加わらなければ入ってもいいですよと言われていたのに、危ない形になってしまった。視聴者の皆さんが見ていて、危ない、不快に思われたということが実際にあったと思います。そこに関しても、僕は謝罪しなければならないし、番組のMCとして配慮が全く足りなかったと思います。番組をご覧になった皆さん、不快に思われた皆さん、本当に申し訳ありませんでした」と頭を下げた。【以下略】