2017年07月08日

『ライフ』

日本版ウィキペディアに、この映画の評価がこう書いてあるが、まあ率直なところ同感である。


本作は批評家から好意的に評価された。映画批評集積サイトのには174件のレビューがあり、批評家支持率は66%、平均点は10点満点で5.9点となっている。サイト側による批評家の見解の要約は「どこかの空間に閉じ込められるというシチュエーションを題材にした映画に新味を吹き込むには至っていない。しかし、『ライフ』はスリリングで、演技の質も高い。それは欠点を補うに足るものだ。」となっている。また、Metacriticには44件のレビューがあり、加重平均値は54/100となっている。なお、本作のシネマスコアC+となっている。


ということは大傑作ではないかもしれないが、水準以上の作品であって、一部の日本のSFおたくが低い評価を与えているのは彼らの感性と知性を疑わせるのに十分なものがある。


監督の先行作品は『デンジャラス・ラン』 Safe House 2012年)と『チャイルド44』 Child 44 2015年)、後者は台詞は英語だが全編ソ連が舞台のサスペンス(主演トム・ハーディ)で、面白かったので、今回も期待値は高い。そして期待どおりの面白い映画だった。


そのため、たとえば以下のような映画評にまどわれないことを祈りたい。


宇宙ではなくB級とC級の間を彷徨ったSFパニック映画! (投稿日:7/8)

 ジェイク・ギレンホール、ライアン・レイノルズと主役を張れる2人が出演しているのに、なぜか話題にならずに公開された「ライフ」!
 観てみたら、話題にならないのは納得、しかし、ラストに納得がいかず、暗黙のルールを破ってしまったこの映画に「悪い意味で」裏切られてしまいました!
 そのおかげで、私的には評価がB級からC級に成り下がってしまいました。
 ちなみに、殆どの映画を「ぜひ、大画面での鑑賞を・・・」と勧めていますが、この映画には言いません!
 唯一、主役級に出番が多く、頑張っていた真田広之に★2つ!


この映画評で、唯一わからないのは「暗黙のルール」を破ってしまったということ。そもそも、なにが「暗黙のルール」なのか。最近、映画・演劇における殺人をめぐる「暗黙のルール」について語ってばかりいる私にとっても、なにが暗黙のルールなのかわからない。


こういう場合、もっともやってはいけない暗黙のルールというのは、ありもしないルールをでっちあげるだけでなく、自分の勝手な好み、根拠もなければ意味もない自分の好みを暗黙のルール化することだ。これだけはやっていはいけないと思う。


この映画のインスピレーションが『エイリアン』であることは誰もが認めているところである。リドリー・スコット監督の第1作ではリプリーがエイリアンを宇宙空間に放り出して消滅させるところで終わった。しかしつづく第2作から第4作までどうなったかといえば、結局、第4作では、エイリアンとリプリーから生まれた子供が地球に到着するところで終わる。地球の破滅のはじまりで終わるのである。努力と犠牲のかいなく、侵略を許してしまうという設定の映画は、やまののようにある。なにかハッピーエンディングではなく嫌だから勝手に暗黙のルールとか言い始めたのか。いずれにせよ、暗黙のルールが何であるか暗黙のうちのするという暗黙のルールはない。


ちなみにこのモンスター、成長型というのはエイリアン風だが、最初は単細胞であり、それが成長するのだが、初期状態では可愛い。そして実験室の隔離装置から逃げ出したのをバーナーで焼き殺そうとする乗組員の姿は、逃げ回るゴキブリを殺虫剤で殺そうとする私自身の姿と重なった。そう、侵略する宇宙生物であるこのモンスターのアレゴリーを考えると、国境を越えて侵入する不法移民とか、あるいは工作員やテロリスト、あるいは社会の中枢に潜むスパイや裏切り者というよりも、すばやいゴキブリといった、小動物以下の昆虫である。


実際、この映画をみながら、侵入を食い止めようとする必死の努力にもかかわらず、侵入を許してしまうであろう結末を考えると(これは予測可能なので、ネタバレではない)、いま現在、まだ少数が発見されたというに段階であったのが、いつもまにか完全に繁殖していることが確認されたヒアリのことを思い浮かべずにはいられなかった。


実際、ヒアリとこの映画の宇宙生物とは共通するところがある。だから奇しくも、日本人にとって、この映画は、妙にリアルなものとなった。外国での評価はともかく、この映画のモンスター、エイリアンは、ヒアリそのものである。その意味で充分に怖い映画なのだが、日本のSFおたくは(とはいえ全員というわけではないが)、この映画のもつリアリティに鈍感なことこのうえもない。そもそもSFは「せんす おぶ わんだー」などではなくて風刺ではなかったか。その意味でこの映画を低く観ている一部のSFおたくボケどもはSFの精神にも背いていることになる。


なおこの物語、サスペンスというか意外性は、けっこうあって、ソユーズが助けにきたかと思うと、ドッキングの仕方が荒っぽくて、ステーション内の機材にひびかはいるほどの衝撃があたえられる、しかし、それには理由があったというのは面白かった。また、最後にどちらが地球に着水しても、結果は同じだと思っていた(あのモンスターにひっかかれた傷からの出血は何の意味だったのだ)が、しかし結末は、予想外の人物の着水で終わっていあ。ただ、どちらが着水しても同じだと思っていたので、予想外の人物という流れそのものが予想外のことだった。


あと2点。どうもSF映画はシェイクスピアの『テンペスト』ねたを使うことが多い。『ローガン』でも「キャリバン」という人物が、ミュータントを発見できるミュータントとしえ登場していた。これはキャリバンという名のモンスターが登場する『テンペスト』の設定の応用だろう。そして今回の『ライフ』には、カルヴィンと命名されるエイリアン・モンスターがいる。これは絶対温度の単位ケルヴィンKelvinのもじりかもしれないが、キャリバンのもじりかもしれない。なぜなら、この映画には、レヴェッカ・ファーガソン演ずる検疫官が登場するが、彼女の名前はミランダ。『テンペト』に登場する魔術師プロスペロの娘の名前である。となるとこのケルヴィンは、キャリバンだろう。


あと、このモンスター、水が好きで、女性よりも男性にとりついている。しかも単細胞から発育していく。つまり単性生殖。つまり自家発電型。そして女性を嫌うようで、水の惑星たる地球を好んでいる。あきらかにこのモンスター、ゲイの人間の特性を備えている。となると、そこに、祈るしかない、ホモフォビアが入っていないこと、を。

posted by ohashi at 21:32| 映画 | 更新情報をチェックする