ネタバレ注意
といっても、最後の最後にブルース・ウィリスが『アンブレイカブル』の主演のデイヴィッド・ダンとして登場し、映画が『アンブレイカブル』と同じ世界、同じ時空を共有していることを予告して終わることではない。たしかにブルース・ウィリスの名前はクレジットには出ないから秘密にされているのだろうが、まあ、誰でも知っていることだし、それがわかったところ映画の面白さが半減するとも思えない。だから、これがネタバレということではない。
『アンブレイカブル』のなかにデイヴィッドらしき人物(子供)が出ていたということもあり、また場所とか音楽などからも、『スプリット』と『アンブレイカブル』とが、後で気づくと同一の世界(a cinematic world)におけるふたつの物語だとわかるようになっている。
『アンブレイカブル』はアメコミなどではスーパー・ヒーローと、スーバー・ヴィランがもともと友人であり、ただ物差しの両端のように、片方はガラスのように壊れやすい肉体(ミスター・グラス)と、何事があっても傷つかないというスーパー・ヒーロー(アンブレイカブル)というかたち危ういバランスをとっていたという興味深い設定だった。
以下ネタバレ注意。Warning:Spoiler
今回スーパーヴィランの誕生の物語となっている。『アンブレイカブル』の超人は、ヴィランのほうではない。ヴィランであるサミュエル・ジャクソンの特異体質は超人といっても壊れやすさの度を越し超人的なもろさにあり、彼がスーパー・ヴィランであるとは誰も思わないのだが、実は、彼は凶悪なテロリストであったということがわかるのが『アンブレイカブル』であった。そして『アンブレイカブル』ではもうひとつ超人の誕生というのがテーマとしてあって、サミュエル・ジャクソンのテロ行為は、たんに凶悪な愉快犯というのではなくて、みずからの対極にあるはずのスーパーヒーローをみつける実験という面があった。そして何事にも傷つかない超人を発見する。それはまた超人の発見発掘であるとともに超人の誕生という二つの面があった。それはまた自分も宿敵でもあると同時に自分のかけがえのない友人の発見でもあった。発見か創造化。宿敵か友人か。その決定不可能性あるいは両面性が『アンブレイカブル』の柱でもあった。
ネタバレ注意。Warning:Spoiler
今回はスーパーヴィランの誕生である。超能力者の誕生には、突然変異のように、予測のつかないかたちで進化の飛躍が見られる場合と、下支えがあり、広いすそ野に押し上げられるようにして誕生する超人というふたつの可能性があった。それはまた偶然的進化と必然的進化の対立でもあり、突然変異という孤立した単独の現象と、試行錯誤と蓄積のうえにたった集団的協同との対立でもある。今回は、多重人格物であることは、予告編でもわかるので、これはネタバレではないが、ビリー・ミリガンのように23の人格をもつ人物が、その23人の人格の共同あるいは対立排除から、最終的に無敵の超人を、24番目の人格として生み出すのである。アメコミに登場するスーパーヴィランは、それぞれ面白い来歴をもつが、これもそれを踏襲している。そして今回、あらためてわかったのだが、アメコミのスーパーヴィランは、ルーザーであること、いろいろな心的身体的外傷を負って絶望の淵から這い上がって超人化することもわかった。もちろんこの超人誕生秘話は差別的なものでることはまちがいが、しかし魅力的超人性によって差別性を目立たなくしている。あるいはルーザーだからこそ超人になるというのは、差別的なものを超越しているのかもしれない。
また『アンブレイカブル』と同様に、アメコミの宿敵どうしは、同時に、友人どうしでもあって、『スプリット』のスーパーヴィランの誕生は、また同じく虐待を受けた少女をスーパーヒーロー的超人として誕生させている。ヴィランと心のなかでむすばれた少女。やがて彼女が、続編『グラス』のなかで、スーパーヴィランにとって最強のライヴァル戦士となるだろうことは、予測できる。
完全なネタバレ要注意 Warning: Spoiler
動物フレンド
強いて不満をいうと『スプリット』って動物フレンドの話ではないか。それぞれの人格は、人間というよりも動物を反映しているはずなのだが、動物園の地下であることを最後の最後まで隠しているために、23の人格(実際の登場するのは8人格)となった:Barry, Jade, Orwell, Kevin, Heinrich, Norma, Goddard, Dennis, Hedwig, Bernice, Patricia, Polly, Luke, Rakel, Felida, Ansel, Jalin, Kat, B.T, Samuel, Mary Reynolds, Ian, Mr. Pritchard. 。Barry, Jade, Orwell, Kevin, Heinrich, Norma, Goddard, Dennis, Hedwig, Bernice, Patricia, Polly, Luke, Rakel, Felida, Ansel, Jalin, Kat, B.T, Samuel, Mary Reynolds, Ian, Mr. Pritchard Barry, Jade, Orwell, Kevin, Heinrich, Norma, Goddard, Dennis, Hedwig, Bernice, Patricia, Polly, Luke, Rakel, Felida, Ansel, Jalin, Kat, B.T, Samuel, Mary Reynolds, Ian, Mr. Pritchard. 登場する8人Dennis, Patricia, Hedwig, The Beast, Kevin Wendell Crumb, Barry, Orwell, Jade。つまり異なる人格となったが、何度でもいうが、本来、23の動物であるはずだった。だから最後に登場する24番目の人格は、最強の動物The Beastだったのだ。
動物性、動物園というのは、実に魅力的な設定でありテーマ、それもきわめて現代的なテーマなのだが、それがネタバレを防ぐために抑圧されたことは、なんとも惜しい。
またアメコミのスーパー・ヴィランやスーパー・ヒーロー/ヒロインは、動物であったことも、今回あらためて思い起こさせてもらった。バットマンとロビン、ペンギンとキャット・ウーマン……